2023年に筆者が取り上げた自然科学系の研究リリースについて、いくつかのテーマごとに振り返る。
カーボンニュートラルの実現
今年特に多く取り上げた記事は、カーボンニュートラル実現のための研究だった。カーボンニュートラルは2050年までにCO2の排出を日本全体として差し引きゼロにするという目標だ。
これを実現するために、政府は特に14分野の産業に力を入れているが、そのうちの一つがカーボンリサイクル・マテリアル産業だ。これはCO2を資源として有効活用を目指す産業で、CO2をアンモニア（https://www.newssalt.com/36113）やメタノール（https://www.newssalt.com/36181）、メタン（https://www.newssalt.com/35960、https://www.newssalt.com/36441）、アセチレン（https://www.newssalt.com/37007）などの有用物に変換しようとする研究が、本サイトで取り上げなかったものも含めて多数進められた。
新しいエネルギーを扱う水素産業、蓄電池産業も重点分野になっている。水素エネルギーはCO2を排出しないクリーンなエネルギーとして着目されている。本サイトでは、アンモニアから効率的に水素を取り出す技術（https://www.newssalt.com/36530）や、水素から直接電子の抽出を試みるもの（https://www.newssalt.com/36825）などを取り上げた。
蓄電池産業では、充電して繰り返し使える次世代二次電池の研究が進んでいる。現在最も普及しているリチウムイオン二次電池を改良して、軽量化、電池性能向上、安全性向上を図ろうというもので、さまざまな原理のものが研究されている。レアメタル不使用の空気電池（https://www.newssalt.com/36215）、全固体空気電池（https://www.newssalt.com/36301）、有機溶媒を水溶液に置き換えた水系電池（https://www.newssalt.com/36804）などだ。この分野で技術的な発展があれば、私たちの生活を大きく変えていくようになるだろう。
その他にも、混合ガスからCO2のみを吸着する新素材（https://www.newssalt.com/36568）、CO2回収・有効利用・貯留(CCUS)技術を活用するための実証試験船（https://www.newssalt.com/37039）、さらに海洋生態系活動によって固定させる炭素であるブルーカーボンについての研究（https://www.newssalt.com/35942）もあった。
環境問題へのアプローチ
6月に発行された2023年版の環境白書では、気候変動による気象災害の増加や生物多様性の損失を問題視する一方で、持続可能な経済社会システムを実現していこうという提言がなされた。そのような中、環境問題を技術で解決しようとする研究が多方面で行われた。
燃焼排ガス中の窒素酸化物からアンモニアを作成する手法（https://www.newssalt.com/35979）や、国立科学博物館が開発した自動車排ガス浄化触媒（https://www.newssalt.com/36365）、マイクロプラスチックの回収技術（https://www.newssalt.com/36138）などがある。また、CO2以外の温室効果ガスであるメタンの収支評価の研究もあった（https://www.newssalt.com/36398）。
生物・宇宙など
生物分野では、生きて活動しているタコの脳波を測定する試み（https://www.newssalt.com/36028）、シカとカモシカが出会う様子の継続的な観察（https://www.newssalt.com/36490）、日本の野山へのオオカミの再導入に関する意識調査（https://www.newssalt.com/36459）などを取り上げた。また、生物的な調査と地学的な調査を総合して水没した島を推定する試み（https://www.newssalt.com/36516）や、遺伝的調査を用いることで陸生であるサワガニの分布の一部が海流によってなされたという推定（https://www.newssalt.com/36866）もあった。
宇宙においては、太陽コロナの過熱問題に意外な量子力学効果が絡んでいることが明らかになり（https://www.newssalt.com/36775）、また宇宙嵐の発達メカニズムにも従来の学説を覆す発見があった（https://www.newssalt.com/36987）。
今後もこれらの研究の進展を見守りたい。
（写真はイメージ）