禁酒・節酒で食道粘膜の前がん状態を改善 新たながん予防の可能性
京都大学大学院医学研究科の研究グループは、食道がんの内視鏡切除後の経過観察により、禁酒・節酒が食道粘膜の前がん状態を改善し、さらに食道がんや頭頸部がんの発生割合を抑制することを明らかにした。国際学術雑誌『Esophagus』で論文が発表された。
食道がんや頭頸部がんは、早期発見できれば内視鏡治療などの方法によって臓器を温存した状態で治すことができる。一方、残った臓器に新たにがんが発生する「領域発がん現象」による生命予後や、声を失うといった生活の質への悪影響が課題となっている。
研究グループは、日本食道コホート試験(Japan Esophageal Cohort [JEC]試験)を通して、食道扁平上皮がんの内視鏡切除後の330症例を経過観察した。食道粘膜の前がん病変である異形上皮は、ヨード色素内視鏡検査で不染色域として確認され、程度により3段階に分けられる。
今回の研究では、JEC試験の登録時にヨード染色を実施し、さらに文書による禁酒・禁煙指導を実施した。その後6カ月ごとに内視鏡検査を、12カ月ごとに耳鼻咽喉科診察を継続しながら経過観察を行い、禁酒・節酒に成功した群と飲酒を継続した群でヨード不染帯の程度の違いを調べた。
登録時のヨード染色で前がん状態と判別されなかった50例と、登録時に飲酒をしていなかった48例を除いた232例を解析したところ、観察期間中央値の42.1カ月において、68.1%の症例で禁酒・節酒に成功していた。そのうち10.8%の頻度で、前がん状態のヨード不染帯の程度が改善した。一方、31.9%の症例は飲酒を継続しており、そのうちヨード不染帯の程度が改善した頻度はわずか2.7%だった。多変量解析により他の要因も考慮した上で、禁酒・節酒が前がん状態の程度を改善する因子であることを結論づけた。
また、前がん状態の程度が改善した集団は、1年以上後に発生する異時性食道がんと異時性頭頸部・食道がんの累積発生率が抑制される傾向がみられた。多変量解析により、前がん状態の程度の改善が、その発生を抑制するリスク因子であると結論づけた。
今回の研究で、禁酒・節酒は前がん状態の程度を改善し、異時性発がんを抑制することが示された。食道粘膜のヨード不染帯の程度は、発がんのリスクを予測するバイオマーカーとして報告されていたが、予防効果の指標になることを示した点が画期的だったと研究グループは述べている。今後の予防医療への応用に期待したい。
画像提供:京都大学(冒頭の写真はイメージ)