植物の映像から風力を推定 自然現象を計算資源として活用する技術を開発
東北大学とはこだて未来大学は5日、自然現象を計算資源にする「環境計算」を用いて、物のゆらぎパターンの映像を使ったソフト風速計を作成したと発表した。既設のセンサーや監視カメラを活用することで、インフラコストをかけずに実現可能なソフト風速計技術につながると期待できる。この研究成果は学術誌に発表された。
生成AIを含む人工知能技術では、機械学習を行うために大量のデータとそれを処理する大規模な計算資源が必要である。これらのデータはインターネットで収集するだけでなく、IoT(もののインターネット)を用いて実世界のセンサーから収集することもできる。
一方、自然界には多様な現象があるが、これらの現象から自然発生した動き(ダイナミクス)を計算資源として活用できる可能性がある。センサーが豊富に設置された環境ではこれらのダイナミクスを収集することが簡単になっている。
研究グループは、自然界の複雑なダイナミクスを計算資源として活用する「環境計算(コンピューテーション・ハーベスティング)」という概念を提唱した。これはリザバーコンピューティングと呼ばれる機械学習の枠組みを応用して、複雑な相互作用によって生じる自然現象の動きを解析し、センサー情報処理に活用しようというものである。「環境計算」は自然現象を計算資源とするため計算コストが低く高速な学習を可能とする。また、計算プロセスの大部分に物理現象を利用するため、計算に用いる消費電力を減らすことができる。
今回、研究グループは、風を受ける植物とそれをカメラで撮影する実験システムを構成し、その植物の映像から検出した特徴点の動きに対して、風向きと強さを推定する実験を行った。実験の結果、植物の映像から抽出した情報の簡単な線形和(ベクトルの足し算)のみから、複数の異なる風向きとその強さを合わせて分類することが可能であることを示した。さらなる確実性の検証の結果、適切な選択をすれば3点のみの特徴点の動きの足し算からも風向きと強さを分類可能であることが示された。
「環境計算」の方法論を用いれば、既存の監視カメラの映像を用いることでインフラコストを最小限に抑えて低消費電力な計算を実現できる。この手法は低コストで、気象観測、農業、都市計画、災害対策など、多くの分野での応用が期待される。今後の研究では、既存インフラから取得可能な環境中の映像などの情報を利用した風速や日照量予測、それによる再生可能エネルギーの発電量予測などの技術開発を行っていくとのこと。
画像提供:東北大学(冒頭の写真はイメージ)