SLIM、月の狙った場所へのピンポイント着陸に成功 28日夜に運用再開
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、1月20日午前0時20分に小型月着陸実証機(SLIM:Smart Lander for Investigating Moon)を月面に着陸させ、地球との通信を確立した。月面着陸に成功したのは、旧ソビエト、アメリカ、中国、インドに続き、5カ国目となる。しかし、着陸シークエンスの途中でメインエンジン1基の推力が何らかの外的要因で失われ、現在はメインエンジンが上を向き、太陽電池パネルが西を向いた状態にある。着陸時の太陽は東側に位置していたために太陽電池からの電力が得られず、同日午前2時57分に地上からのコマンドによりSLIMの電源をオフにしていた。月面における夕方になれば太陽電池に日が射して電力が回復し運用再開できると考え、日没となる2月1日までSLIMプロジェクトメンバーが諦めずに通信を試み続けていた。その結果、28日夜にSLIMとの通信の確立に成功し、運用を再開したと29日午前8時4分にXで報告された。
SLIMは航法カメラによって高精度に自身の位置を推定しながら、自律的な航法誘導制御により月面上の目標地点に接近した。目標地点上空からは、着陸レーダによる高度・地面相対速度の精密計測も航法誘導に反映し、着陸地点上空約50mで画像ベースの障害物検出を行い、危険な岩などを自律的に避けて着陸する計画となっていた。実際に着陸したのは当初の目標地点から東に55m程度の位置にあり、ピンポイント着陸性能を示す上空50m付近での位置精度は10m以下、恐らく3~4m程度と評価された。このことから、SLIMの主たるミッションである「100m精度のピンポイント着陸」の技術実証は達成できたと考えられる。
また、接地直前には超小型月面探査ローバ「LEV-1」、変形型月面ロボット「LEV-2」(愛称「SORA-Q」)を放出し、どちらも放出後の正常動作が確認された。冒頭の写真は、LEV-2がSLIMおよび周辺環境を撮影した複数枚の画像の中から、SLIMが画角内に写っている良質な画像を選定し、LEV-1の通信機経由で地球への直接送信に成功したものだ。加えて、SLIMに搭載されたマルチバンド分光カメラ(MBC)についても、電源オフまでの間に観測対象となる岩石を特定するため周辺のモノクロ画像を撮影していたが、28日夜の運用再開後にMBCでの科学観測を開始し、無事、10バンド観測のファーストライトまで取得している。
これまでJAXAが打ち上げた探査機では、はやぶさが小惑星イトカワに、はやぶさ2が小惑星リュウグウに着陸を果たしている。どちらも小惑星であり、微小な重力の天体であって、月のようなある程度の重力がある天体への着陸は今回が初となる。今回の自律制御によるピンポイント着陸により、従来の「降りやすいところに降りる」着陸ではなく、「降りたいところに降りる」着陸へと質的な転換を果たすことができた。今後、月よりもリソース制約の厳しい惑星への自律的な着陸が期待される。
2月1日の日没後は氷点下100度以下となるため、SLIMの運用はそのまま終了となる見込み。
写真提供:JAXA