安全で低消費エネルギーの固体水素キャリアを開発 東工大など
東京工業大学、大阪大学、筑波大学は9日、固体であるホウ化水素シートから常温・常圧において電気エネルギーのみで水素を放出できることを発見したと発表した。これによって爆発性のある水素の貯蔵と放出を、高温や高圧を要する従来の方法よりも低エネルギーで安全に行うことが期待できる。この研究成果はナノテクノロジーの科学誌に掲載された。
2050年までにCO2の排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するために、化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして着目されているのが水素である。気体のままでは貯蔵・運搬の効率が低い水素を、多くのエネルギーを必要としないで貯蔵・運搬できる水素キャリアが求められている。
液体の水素キャリアとして、アンモニア、ギ酸、有機ハイドライドなどが知られるが、毒性、腐食性、水素放出に高温の加熱工程が必要などの課題がある。また、固体の水素キャリアとして水素吸蔵合金などが知られるが、それらの質量水素密度は低く、軽量で貯蔵・運搬するには大きな課題があった。
筑波大学の研究グループは、水素貯蔵密度が高い固体状の二次元ナノ材料であるホウ化水素シートの合成に成功していた。ホウ化水素シートは、ホウ素と水素の組成比が1:1の厚さがナノメートルオーダーのシート状物質である。ホウ化水素シートの質量水素密度は8.5wt%で、これまで水素貯蔵密度が大きいと知られていた有機ハイドライドであるメチルシクロヘキサンの6.2wt%を大きく上回る。
ホウ化水素シートから水素を放出する手段として、これまでに加熱と紫外線照射が報告されている。しかし、加熱には多量のエネルギーが必要であり、紫外線照射では光の当たる部分のみしか水素が放出されず、効率的な水素生成には課題があった。
今回の研究で研究グループは、ホウ化水素シートに電圧を印加する単純な操作で、常温・常圧という穏やかな条件で水素を取り出すことができることを示した。ホウ化水素シートに電位を印加しない自然電位の条件では水素生成は認められなかった一方、電位を負に印加することでホウ化水素シート分散体からは水素が生成した。
作用極に-1.0Vの電位を48時間印加することで、ホウ化水素シート自身が持っている水素量をほぼ全量放出できることが確認できた。また、同じ電位の条件で、ギ酸など他の水素キャリアと比べてより大量の水素を低エネルギーで放出することが示された。さらに水素放出後のホウ化水素シートの構造解析を行ったところ、二次元のナノシート状の形状は維持されており、これに水素イオンを添加することで持続的に水素キャリアとして使用できる可能性を示している。
今後はホウ化水素シートの大量合成、製造プロセスの低コスト化、膜構造体の開発を進め、さらに、繰り返し使用可能な持続的水素生成システムの構築に向けた研究開発を行うという。
画像提供:筑波大学(冒頭の写真はイメージ)