針なし注射器の実用化に向けた要因を解明 東京農工大
東京農工大学は16日、針を使わずに柔らかい材料を貫通できる集束マイクロジェットの貫通深度に関わる要因を特定することに成功したと発表した。今後、これを貫通深度を制御するための指標として用いることで、より安心安全な針なし注射器の開発が期待できる。この研究成果は、流体物理学の国際学会誌に発表された。
注射針を用いての薬物送達には、薬物を必要な部位に必要な深さだけ正確に届けるという利便性がある。しかし、注射針の再使用による感染拡大の可能性や、注射針に対する恐怖心から、注射針を使わない注射器が開発されてきている。
市販の針なし注射器は、先端部の拡散形状の液体ジェットと皮膚との接触面積が大きいため、皮膚に加わる垂直応力が大きく、組織に損傷を与えることがある。研究グループは、ジェット生成装置を用いて集束する形状の液体ジェットを生成することに取り組んできた。この液体ジェットでは皮膚に加わる垂直応力が軽減される。しかし、浸透深さに影響する要因が完全に解明されていないため、未だ実用化には至っていなかった。
研究グループは今回、浸透深さに大きく影響する材料に対するジェットの貫通深度に関係する要因を調査した。まず、注入管の内径と、液面と材料の距離の2つのパラメータを変化させてジェットの貫通実験を行ったところ、貫通深度は液面から一定距離でピークに達し、注入管の内径が増加するにつれて、その距離がより遠くになることがわかった。次にマイクロジェットの速度分布を分析することにより、貫通深度のピーク距離と最大速度の関係がジェット形状の影響により変化することがわかった。
これらのことにより、速度とジェット形状を統一する物理量「ジェット圧力力積」という概念を得ることができた。これは単位時間、単位面積当たりにかかるジェットによる力である。この値が大きいことはジェット断面積が小さく、速度の大きい「鋭い」ジェットが生成されていることを示している。検証実験の結果、ジェット圧力力積の大きさと貫通深度との間に相関があることが示された。
この研究により、針なし注射器の実用化に向けた知見を得ることができた。今後は、貫通する物体の硬さの影響や薬効などについて検討し、さらなる実用化を推進していくとしている。
画像提供:東京農工大学(冒頭の写真はイメージ)