放射性廃棄物やCO2を地下貯留できるシーリング材を化石からヒントを得て開発 名古屋大など

岩盤で半永久的に使えるシーリング材 放射性廃棄物の地下処分などに有効 名古屋大など

名古屋大学などの研究グループは、従来のセメント材とは異なる新たな素材を元にしたシーリング材を開発し、実証実験によって効果を証明できたことを発表した。このシーリング材は、保存良好な化石を内包しつつ数万年以上に渡って風化に耐えてきた「球状コンクリーション」のメカニズムを応用しており、透水性を1/100〜1/1000に低下させることができる。また、地震によって一時的に効果が低下した後も、速やかに回復することが確認された。この成果は22日付で国際科学誌に掲載された。

昨今、エネルギー確保および地球環境問題への対策として、放射性廃棄物の地下隔離・処分や、温暖化対策としての二酸化炭素の地下貯留の手法を確立する必要性について議論されている。これらの放射性廃棄物や二酸化炭素を地下に半永久的に処分・隔離するためには、廃棄物を搬入した立坑を確実に閉塞する「シーリング」が必須となる。しかし、現在用いられているセメント素材を基本としたシーリング材では、数百年以上は持たないと考えられており、それ以上の長期的効果・耐久性を有するシーリング剤の開発が求められてきた。

研究グループは、球状コンクリーションという炭酸カルシウムを主成分とする球状岩塊に着目した。球状コンクリーションは、保存良好な化石を内包し、その生成速度は数週間程度、メートルサイズでも数年程度と非常に早く、数万年~数十万年以上に渡って風化などに耐えてきた実績がある。この球状コンクリーションのメカニズムを応用して、シーリング材の開発を進めた。

秋田県男鹿半島にある約1500万年前の鯨コンクリーション群。100個以上が確認されており、最大のものは直径5mを超える。内部に鯨化石が内包されており、大きさ・量ともに世界最大規模。
約1600万年前の岩ガニのコンクリーション。ハサミ、足などの部位が全て残っており、カニの死後、スカベンジャーに捕食される以前の、数週間以内にコンクリーション化したことを示す。

今回開発したシーリング材には液体タイプとマイクロカプセル(粒子)タイプがあり、液体タイプはそのまま岩盤亀裂に注入が可能。マイクロカプセルタイプは従来のセメントミルクと併用して岩盤内部の微小亀裂に注入することもできる。このシーリング材は、従来のセメントのみを用いる物理的なシーリング剤の圧入法とは違って、元素の拡散・沈殿によるシーリング法で、ミクロンサイズ以下の極微細な岩盤空隙までシーリングすることも可能となった。コンクリーション化による炭酸カルシウム結晶(鉱物)形成後も、地下水中の自然由来重炭酸イオンやカルシウムイオンとの反応により結晶が持続的に成長し、シーリング効果が長期的(理論的には半永久的)に維持される。

研究グループは、地下350mの幌延深地層研究センター地下研究所で約2年間、実証実験を実施した。その結果、コンクリーション化によって透水性が1/100~1/1000に低下した。また、実験期間中に生じたM5.4の直下型地震をはじめとする計11回の地震によって亀裂シーリング効果が一時的に低下したが、その後速やかに再シーリングされ、効果が回復することが確認された。これらは、従来のセメント材料では得られない効果であり、数百年以上もの地下隔離を必須とする放射性廃棄物の地下処分や二酸化炭素の地下貯留において、従来のセメント素材の耐久性では対応できない弱点を補うことができる手法だといえる。

地下350mでの約2年にわたるコンクリーション化による亀裂シーリング実験結果。
地震前後シーリング効果が一旦低下したが、その後急速に再シーリングされることがわかる。

研究グループはこの技術について、地下環境を活用する地球規模で直面しているエネルギーや環境課題だけでなく、様々なインフラの長期メンテナンスなどのニーズにも応用可能であり、メンテナンスフリーを目指す今後の幅広い技術への展開が期待されると述べている。

画像提供:名古屋大学(冒頭の写真はイメージ)