23年12月の北海道の赤いオーロラ、成因を解明 極地研など

国立極地研究所は6月24日、2023年12月1日に発生した北海道から肉眼で観察できるほど異常に明るいオーロラの発生メカニズムを検証したと発表した。今後の正確な宇宙天気予報への貢献が期待できる。この研究成果は米国地球物理学会誌に発表された。

地球の周りの宇宙空間には、地球の磁場の勢力範囲(磁気圏)が存在し、そこには電気を帯びた荷電粒子(プラズマ)が存在している。このプラズマの起源の一つは、太陽からやってくる太陽風と呼ばれるプラズマである。太陽風が特に激しくなって磁気嵐の状態になると、プラズマの増加に伴って、激しいオーロラ活動が観測されたり、超高層を強い電流が流れたりする。そのため人工衛星の機能障害や、GPSの測位精度の低下、さらには地上での停電など日常生活にも大きな影響が及ぶ。磁気嵐について詳しく知ることは、宇宙を安全に利用するために必要不可欠なことだ。

非常に大きな磁気嵐の発生時には、中緯度地域にあたる日本の北海道や東北地方などで赤いオーロラが観測されることがあった。しかし、2023年12月1日の磁気嵐の規模は決して大きなものではなかったにも関わらず、北海道の北部や東部の広い地域で、肉眼でも確認できるほど明るく赤いオーロラが目撃された。国立極地研究所、名古屋大学、東京大学の研究グループは、通常規模の磁気嵐で、なぜこのように異常に明るいオーロラが見られたのかを検証した。

SNSを介して収集された多地点で撮影されたオーロラ写真によって、発光高度は400~600km、磁気緯度は50~53度と、赤いオーロラの発生位置を特定することができた。高精細な写真からは、磁力線に沿った筋状の背の高い構造が明らかになった。

また、最も異常な特徴である、肉眼でも確認できるほど明るいオーロラが発生したのに、磁気嵐の規模は大きくなかった、という点については、この磁気嵐の原因となった太陽風の密度が極めて濃かったことと関係していたことが明らかになった。高密度の太陽風によって地球の磁気圏が圧縮されて、異常に小さくなった磁気圏からはプラズマが漏れやすくなるために、磁気嵐の発達が抑制されてしまったと考えられる。オーロラが最も明るく輝くのはサブストームと呼ばれる爆発的なエネルギー解放現象が起こる時だが、この時は通常よりも地球に近い位置でサブストームが起こっていたことがわかった。このサブストームがオーロラを生み出し、発光高度が高く、それがたまたま北海道から観測しやすい絶好のタイミングで起こるという、いくつもの条件が重なったことで、磁気嵐の規模が大きいものでなくても、北海道から明るいオーロラが見られるという状況が達成された。

今回の研究では、SNSを通じて多数の市民の協力を得られたことが検証につながった。日本のような中緯度地域からもオーロラが見られる条件の詳細が明らかになったことで、今後の正確な宇宙天気予報への貢献も期待できる。また、日本の古い記録に「赤気」と記されているオーロラの状態をさらに詳しく読み解く手がかりを得られた。

図:北海道の異なる地点から撮影されたオーロラ

画像提供:国立極地研究所