地下での防災システム構築 ゲリラ豪雨の浸水対策に採用

九州豪雨を解析し、線状降水帯の発生メカニズムを解明 九大など

九州大学、熊本大学、東京大学は12日、2021年8月中旬に九州で起こった豪雨を解析し、線状降水帯の発生メカニズムを解明したと発表した。線状降水帯の発生予測の精度向上が期待できる。この研究成果は気象関係の国際学術誌にオンライン掲載された。

西日本では、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月西日本豪雨、令和2年7月熊本豪雨など、線状降水帯の発生と持続によって甚大な豪雨災害が生じている。このような被害をもたらすのが線状降水帯と呼ばれる、個々の積乱雲が発生・消滅を繰り返して入れ替わりながら、積乱雲の集団として線状に組織化され、その降水システムが長時間にわたって停滞する(地理的に固定される)現象だ。線状降水帯は海上から内陸に伸びる事例が多々あるが、なぜ山岳などの地形がない海上で線状降水帯が局在化して発生するのか、そのメカニズムは依然として十分に解明されていなかった。

九州大学、熊本大学、東京大学の研究グループは、線状降水帯に流入する水蒸気の起源解析に基づいて、上記のメカニズムの解明を目指した。研究対象としたのは、戻り梅雨の状態で2021年8月中旬に九州地方で起こった豪雨である。

解析には、水の同位体分別の過程を組み込んだ同位体領域気象モデル(IsoRSM)を用いた。蒸発時の水素同位体比と酸素同位体比がその時の環境を反映しているために、降水の元になっている水蒸気の起源を診断するトレーサーとして用いることができる。

解析の結果、梅雨前線低気圧に捕捉されて流入したアジアモンスーン起源の水蒸気と、太平洋高気圧の西縁に沿って流入した水蒸気(太平洋高気圧起源)が重なり合って非常に背の高い湿潤層が形成され、極端に大気が不安定な状態になっていた。二つの異なる起源の水蒸気がマージする領域で線状降水帯が発生するのは、境界に上昇流が誘起されて積雲対流を生じさせるためである。さらに、梅雨前線低気圧と太平洋高気圧との間の強い水平気圧勾配の下で、二つの水蒸気のマージが持続して、線状降水帯の更なる強化につながっている。

同位体気象モデルで再現された水蒸気分布(2021年8月12日)。(a) 水蒸気の総量(緑色は50mm以上)。(b) アジアモンスーン起源の水蒸気(薄青色は5mm以上)。(c) 太平洋高気圧起源の水蒸気(薄青色は5mm以上)。

これらの知見によって、豪雨被害を軽減するための線状降水帯の発生予測の精度向上が期待できる。特に予測精度を高めるために、梅雨前線低気圧の発達やその詳細な空間構造の精度の高い情報が必要だとわかった。今後も線状降水帯の普遍的な理解をするための研究を進めていくとしている。

画像提供:熊本大学(冒頭の写真はイメージ)