[書評]『二コラ・テスラ 秘密の告白』 天才発明家の真実な姿
二コラ・テスラ(1956-1943)はクロアチア(当時・オーストリア帝国)出身の発明家、電気技術者。渡米して発明王エジソンの下で働くが、直流送電を推進したエジソンに対して交流を推奨して決裂。「電流戦争」と呼ばれた激しい競争で結局は勝利したことで知られる。
本書はテスラが残した著作の中から、人生の回顧録を第一部「世界システム=私の履歴書」、エネルギー問題に関する論考を第二部「フリーエネルギー=真空中の宇宙」として構成したものである。
第一部で印象的なのは、幼少期から見覚えのある事物場面が閃光とともに心象として浮かび上がるという悩みを抱えていたことだ。彼はそれを解決するためにその度に新しい心象を自分で頭の中に浮かび上がらせようとした。この訓練の結果、何かを頭の中で本物のように鮮明に思い描くことができるようになり、図面も模型も実験もいらなくなった。聖職につくことを期待されていたが、伝染病で死の危機に陥ったときに父から技術学校へ行く許可をもらう。健康が回復したテスラはグラーツの技術学校で物理学・数学を学び、ブダペストで電気技術者として職に就く。仏独、そして米国で働き、回転磁気のアイディアから交流誘導モーターと交流発電機を発明する。エジソンと決裂した後にウェスティングハウス社と契約。少年期に見た絵の情景からナイヤガラの滝で大きな水車が回る様子を頭の中に思い描いていたが30年後に世界最初の水力発電所として現実になった。
第二部では、人類は一つという考えのもと、運動の一般法則を援用し、人類全体のエネルギーを最大にするための方策がつづられる。ここでテスラは「食物」「平和」「仕事」の改革を提唱する。「食物」の増産のために、大気中の窒素を電気で燃焼させて肥料化すること(これはアーク法といって実際に行われたが、より効率的なハーバー-ボッシュ法に取って代わられた)。「平和」を維持することで人類の活動を妨害する戦争の力を消滅させること。但し、どんな強力な兵器ができても戦争はなくならないので、機械同士を戦わせて戦争の代わりとして恒久平和の前段階にする。「仕事」は、キリスト教の教えどおりにたゆまぬ努力で有益を積み上げていくことだ。仕事に用いるための莫大なエネルギーを地球環境から直接取り出すことができないかについても考察されている。
テスラというと奇人変人やオカルトというイメージが強いのだが、その著作に接してみると人類全体の向上を真摯に考える発明家だったことがわかる。風評や先入観に惑わされずに自ら見聞きし判断することの大切さを感じさせられた。テスラの発明した交流システムの上で現代の生活は成り立っているし、彼の後半生の夢だった無線送電システムは実用化を目指した研究が今もされている。今年で没後81年、正当に評価されてきたとは言い難い人類の恩人の話に触れてみるのはどうだろうか。
『二コラ・テスラ 秘密の告白』
著者:二コラ・テスラ
発行日:2013年1月16日
発行:成甲書房
(写真はイメージ)
【書評】科学者の随筆・評伝