信長の手紙発見、室町幕府滅亡を読み解く資料 熊本大と永青文庫
熊本大学と永青文庫(東京都文京区)は6日、同文庫で新たに織田信長から細川藤孝に宛てた手紙が発見されたことを発表した。室町幕府の滅亡にいたる複雑な政治史を読み解く上で重要な資料となる。
永青文庫には、大名肥後細川家伝来の重要な歴史資料が多く保管されている。その中には、織田信長からの手紙59通も含まれ、すべてが国の重要文化財に指定されている。今回、永青文庫と熊本大学永青文庫研究センターが共同で調査し、新たに60通目となる信長の手紙が発見された。この手紙は室町幕府滅亡の約1年前、1572年8月15日に細川藤孝に宛てられたもので、当時の幕府の状況を知る上で非常に貴重な資料だ。
信長はこの手紙で、室町幕府15代将軍である足利義昭の側近たちが誰も手紙や贈り物を送らない中、藤孝だけが贈り物を送ってくれたと感謝している。そして、畿内の領主たちを信長の味方に引き入れてほしいと頼み、「あなたの働きこそが重要なのです」と記している。
この手紙から、室町幕府の崩壊に至る背景を理解するのに重要な、以下の新たな情報がわかる。この時点で、信長と義昭の側近たちとの関係が非常に悪化していたこと。側近たちの中で藤孝だけが信長と通じていたこと。翌年2月に義昭が信長に反旗を翻す半年も前から、藤孝は畿内の領主たちを信長の支持に回るよう活動していたこと。つまり、義昭が反旗を翻した際に、畿内の領主たちの支持を充分に得られないまま終わってしまった背景に、藤孝の半年にもわたる活動があったことが明らかになった。
今回発見された手紙は、室町幕府の滅亡へといたる当時の複雑な政治史を読み解く上で欠かせない事実を信長自身が記した、信頼すべき一次史料だと言える。この手紙の原本は、10月5日から12月1日まで、永青文庫で開催される秋季展「熊本大学永青文庫研究センター設立15周年記念『信長の手紙』」で展示される。また、この展覧会に合わせて、信長の手紙について詳しく紹介した書籍も出版される予定だ。
画像提供:wikipedia(冒頭の写真)、熊本大学(織田信長書状)