CO2水溶液を高効率でギ酸として資源化する革新的技術 東京都立大

CO2の有効活用技術 防腐剤等に用いられるギ酸に変換 東京都立大

東京都立大学は2日、アルカリ性の水に溶けた二酸化炭素(CO2)を高効率でギ酸に変換できる技術を開発したと発表した。カーボンニュートラル実現のためのCO2資源化技術として期待できる。この研究成果は英国王立化学会誌にオンライン公開された。

2050年までにCO2の排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを実現するために、CO2を資源として有効活用するための技術の研究が進められている。変換対象の候補にはアンモニア、メタノール、メタン、アセチレンなどがあり、ギ酸もその一つである。ギ酸は最小の有機酸であり、防腐剤、抗菌剤、還元剤、化学原料などの用途がある。しかし、分離・回収したCO2を化学反応の原料として使うには、精製や圧縮も含めた多段階の工程が必要であり、多くのエネルギーが必要だ。また、気体のCO2を電気分解しようとすると利用効率が悪いという課題もあった。

これに対するアプローチとして、アルカリ性の水溶液で捕捉したCO2を直接利用して資源化を行うReactive CO2 Capture(RCC)という技術がある。RCCではCO2の捕捉とその後の変換が一体化しているため高効率化な点が特徴だ。 CO2をアルカリ性の水酸化カリウム水溶液で捕捉すると、炭酸水素カリウム(KHCO3)水溶液となる。これを電気分解すると、CO2が電極触媒によって活性化して、ギ酸(HCOOH)への還元反応を進行させることができる。しかし、今までは還元反応に競合する水素発生が起こってしまうことから、その電気効率が60%程度にとどまっていた。

炭酸水素イオン水溶液からギ酸イオンを合成するための電解反応装置

研究グループは、CO2還元反応用電極の近傍における水素イオン濃度を低減することと、発生するCO2の分圧を増大させることとで、ギ酸合成の効率を向上できるのではないかと考えた。そこで水素イオンを輸送する高分子電解質膜とCO2還元用電極を親水性の多孔質膜で隔てた構造の電解反応装置を開発した。この装置では、酸素発生用電極から高分子電解質膜を経由して供給される水素イオンが、親水性の多孔質膜の内部で炭酸水素イオンによって中和されて量が減少し、それと同時にCO2ガスの発生反応が促進されていると考えられている。親水性の多孔質膜としてセルロース混合エステルを用いたところ、電流密度100 mA/cm2においてギ酸生成の電気効率が91%に達し、世界最高性能となった。さらに高電流密度の300 mA/cm2においてもギ酸生成の電気効率は85%を維持した。また、未反応の炭酸水素イオン水を繰り返して反応に用いることができてCO2の利用効率が89%まで向上し、既往の装置の10%以下という値を大きく上回った。

KHCO3水溶液を原料として電解合成したHCOOKの結晶

生成されたギ酸イオン水溶液から水分を取り除けばギ酸カリウム(HCOOK)の結晶が得られる。ギ酸塩の結晶は大容量かつ長期のエネルギー貯蔵及び長距離のエネルギー輸送に利用できる。

この研究成果は、再生可能エネルギー由来の電力を用いて大気中のCO2をエネルギー物質へと変換する技術であり、カーボンニュートラル実現のために貢献できる。今後はさらなる高性能化を目指すとともに、段階的に研究開発の規模を拡大していくとのこと。

写真提供:東京都立大(冒頭の写真はイメージ)