【コラム】元兵庫県知事に関する告発関連報道とメディアの表現

「パワハラ知事 “不信任可決”」9月19日の兵庫県の県議会本会議で、斎藤元彦知事に対する不信任決議が全会一致で可決されたことを受け、とあるニュース番組で報じられた際のタイトルだ。この放映を見た視聴者がSNS で「パワハラ知事」という表現に対し疑問を呈する趣旨の投稿をしたところ、その投稿が8万を超える“いいね”を得たということが話題になったのは、記憶に新しい。報道の基本は事実を中立・公平性を持って伝えることだと言われる。だが、実際はどうなのだろうか。今回の件での報道各社の伝え方に注目し、情報の発信側と受け手側それぞれの留意点を改めて考えてみる。

不信任決議までの経緯

一連の報道の発端は、2024年3月中旬に、当時県西播磨県民局長だった男性職員が、斎藤知事によるパワハラや投票依頼の不正行為など内部告発する文書を報道機関などに送付したことだ。5月に内部調査が行われ、「文書は核心的な部分が事実ではなく、真実と考える合理的な根拠は何ら示されなかった」と結論づけられたものの、兵庫県議会は調査が不十分と判断し、6月には調査特別委員会を設置して関係者から証言を取っている。

知事は内部告発の内容に関して、事実無根の内容がたくさん含まれていると認めておらず、複数の職員に対する叱責に関しては「当時の認識としては合理的な指摘だった」と述べ、パワハラを認めなかった。一方で「不快な思いをさせたなら謝りたい」と謝罪の言葉も口にしている。

このような状況の中で、前回の知事選で斎藤知事を推薦した日本維新の会が9月9日に辞職と出直し選挙を申し入れるなど、斎藤知事に辞職を促す動きが出ており、一連の県政の停滞に危機感を募らせた兵庫県議会は不信任決議案を提出。不信任の議決を受けて斎藤知事は、26日に県議会は解散せず失職を選び「出直し選挙」に立候補する意向を表明した。

「パワハラ知事」という表記

朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日経新聞、そしてNHKなどは、「兵庫県知事」「斎藤知事」など知事の肩書や名前を用いて不信任案が可決したとの見出しで報じていた。また筆者が見たところ、テレビ東京の経済ニュース番組WBSでは「兵庫県知事“パワハラ疑惑”」という表現をしていたものの、パワハラ知事などパワハラという単語を知事の呼び名のように使う表現はなかった。

冒頭の各社はパワハラ知事という表現をなぜ選ばなかったのか。それは9月時点でパワハラの事実関係はまだ調査中であり、最終的な結論は出されていないことに起因する。兵庫県議会による特別調査委員会とは別に弁護士6人で構成する第三者委員会による調査が行われることとなっているが、こちらも報告がまとめられるのは2025年3月となる見込みだ。斎藤知事に対する告発はいまだ疑惑の域を出ていないことから、「パワハラ知事」という表記はパワハラの事実が既に認定されているという誤解を与えかねないという点では、行き過ぎた表現だとも言える。

報道における情報の切り取り方

メディアの報道の仕方に関してはこんな事例も。今年5月に、上川陽子外相が静岡県知事選の応援のために行った演説に関して、上川外相の「うまずして何が女性か」という発言が報道の見出しとして使われた。記事の本文には新たな知事を誕生させる趣旨の発言であることは記載されていたが、見出しだけを見た読者には、上川外相が「女性は出産するものだ」と発言したかのような誤解を与えかねない見出しであり、悪意のある切り取りであると指摘されていた。

情報社会とメディアリテラシー

この記事で取り上げたいくつかのケースのように、メディア報道には時として視聴者や読者に対して、事実として認められていないことを事実であるかのように思い込ませ、切り取った言葉だけを印象づけてしまいかねない表現が含まれていることがある。もちろん発信側が取り組むべき課題ではあるが、同時にニュースを受け取る視聴者や読者においても下記の3つの点は意識しておきたい。

1.複数の異なるソースから情報を収集する習慣をつける

同じ出来事でもメディアによって解釈や報道の仕方が異なることも少なくないため、多様なソースから情報を取り入れることでより客観的に事象を捉えることが可能になる。1つの情報源だけで得た情報を安易に他者に伝えるなどしてしまうと、その情報が誤っていた場合、フェイクニュースの拡散につながる場合もある。

2.発信元を確認する

より信頼性の高い情報源を探すことや一次情報を探すことも重要だ。公的機関や専門家などの情報は比較的信頼性が担保されている一方で、匿名のブログや掲示板など発信元が曖昧な情報は気を付けたほうがよい。根拠に基づかない情報や、一個人の主張にとどまる内容が、ただ拡散されているだけのケースがある。また、一見するとニュースサイトに見える場合でも運営元が公表されていないケースもある。

3.事実と意見を区別する

ニュースで伝えられる情報には、実際に起こった事実と特定の個人の意見が混在しているケースがある。例えばテレビ番組の場合、コメンテーターの言葉は事実と本人の意見が混ざっているため、区別して聞くことが大事になる。報道番組や記事、SNS等でも同じだが、情報の発信者がどのような意図をもって発信しているのかを意識することで、事実と意見の見極めがしやすくなる。

 

さまざまな情報があふれる現代において、情報の一受け取り手として各々がリテラシーを持ってテレビや新聞、WEB、SNSなど各種メディアに触れることが不可欠だ。

(写真はイメージ)