高温水でプラスチックを分解・リサイクルする手法を開発 信州大など

信州大学と海洋研究開発機構は7日、アセチルサリチル酸由来のビニルポリマーを高温高圧水で5分間処理することで、主成分であるフェノールを高純度・高収率で回収できることを発表した。強酸や強アルカリを使用せずに、より簡単・安全にプラスチックを分解・リサイクルする新しい循環システムが可能になる。この研究成果は米国化学会誌にオンライン公開された。

プラスチックによる環境汚染が社会問題となり、使用済プラスチックを回収・再利用する技術の開発が進められている。2019年には米国でプラスチック廃棄物を分子レベルで分解し、有用な資源を回収する技術の開発が目標に定められた。日本でも2021年に「資源循環の実現に向けた結合・分解の精密制御」が文部科学省の開発目標として設定されている。

プラスチック総生産の7割以上を占めるビニルポリマーは、炭素原子が鎖状に連なる主骨格を持って、プラスチックの中でも特に分解が難しいことが知られている。以前の研究では、アセチルサリチル酸(別名:アスピリン)から合成したビニルポリマーを強酸や強アルカリにより分解して原料を再生することに成功していた。

研究グループは強酸や強アルカリを使用せず、より簡単・安全にプラスチックを分解することを目指し、「高温高圧水による処理技術」に着目した。アセチルサリチル酸由来のビニルポリマーを粉末状にし、300℃の高温高圧水で5分間加熱後に急冷したところ、サリチル酸からCO2が抜けたフェノールの針状結晶が97%の収率で回収された。これはすなわち、ビニルポリマーから全重量の57%の炭素資源が回収できたことになる。

アセチルサリチル酸から合成したビニルポリマーの分解・資源回収

回収したフェノールからビニルポリマーを再生することも原理的に可能で、一部の工程は既に工業的に確立されている。これによりビニルポリマーの「ケミカルリサイクル」が可能になる。

高温水でプラスチックを分解・リサイクルする手法を開発 信州大など
フェノールからのモノマー再生 アセチルサリチル酸までは工業的に確立済み

この研究により、フェノールと二酸化炭素、酢酸から、炭素資源の再生・循環を可能にするビニルポリマーが製造できることが示された。これらの成分は木質バイオマスの分解によって得られるので、天然の炭素資源からプラスチックを製造しつつ、それらの廃棄物から炭素資源を回収する、持続可能な物質戦略が可能になる。

今後は、バイオマス由来の炭素資源を活用した新しい分子骨格を探索するとともに、ケミカルリサイクルの工程をより短くするための研究を進めていくとのこと。

画像提供:信州大学