踏み固められた土壌の森林発達に及ぼす影響が明らかに
東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻の日浦勉教授と北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの中村誠宏教授らは、14年間に及ぶ大規模野外実験によって、土壌が強く押し固められること(土壌圧密)によって樹木種数や土壌の健全性を低下させることをつきとめた。また鳥によって種子散布される樹木の定着も阻害されていることがわかった。これにより、放棄された土地の自然再生や都市の緑地造成を図る上で、土壌の健全性がポイントになるということが示唆された。
これまで、人が植栽した単純な樹林よりも様々な高さの樹木が複数の層をなしている自然林の方がヒートアイランド現象の緩和効果が高いことや、そこに生息する生物の多様性が高いことは知られていた。しかし、重機や人間によって踏み固められた土壌が森林の発達過程にどのような影響を及ぼすのかはわかっていなかった。
本研究グループは北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの敷地内で、樹木をすべて取り除いた10メートル四方の実験区を24カ所設置。何も手を加えない区(対照区)と道路工事に用いる填圧機で土壌を押し固めた区、土壌有機物を取り除いた区を設け、14年間観察した。この実験区は落葉広葉樹林で囲まれ、実験区には自然に種子が散布されるようになっていた。
何もないところに種子が落ちて森林が始まる過程を14年間で観察した結果、土壌を押し固めることは樹木の種数とバイオマスの両方を減少させ、土壌中の微生物群集の様々な機能も減少させることがわかった。また、土壌を押し固めた区では鳥が運んだ種子の樹木の定着がほとんど見られず、他の区と樹木の種組成に大きな違いをもたらした。さらに、樹木の種数が多いと土壌微生物が落ち葉などを分解する分解活性が活発になるということもわかった。
本研究結果からは、樹林の地下部と地上部は相互に関係しており、都市林の設計においては植える樹種を考えるだけではなく、土地の状態がどのようなものかを考慮することも重要だということが示された。また、森林の発達過程で樹木を間引く際は種数を減らさずに個体数の多い種を選伐するなど、具体的な施業方法に活かすこともできる。
本研究は、未熟な火山性土壌と冷温帯温帯落葉広葉樹林での実験であったため、他の土壌や森林タイプでの検証も望まれる。また、今回は樹木が無い土地から森林が始まる過程を観察したが、有機物を取り除いた区は14年でようやく草本や樹木の実生が定着し始めたことから、それぞれの区における今後の遷移の違いが明らかになっていくことが期待される。
(写真はイメージ)