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賛否分かれる大学入試の「女子枠」 現状と今後

38日は国際女性デー。女性の地位向上や女性差別の払拭を目指して国連が定めた日だ。入学試験シーズンでもあるため、今回は大学入試の「女子枠」に着目し、女子枠が導入されるようになった背景や賛否、今後について展望する。

国際的に理工分野の女性比率が低い日本

大学入試の総合型選抜や学校推薦型選抜などで、女子だけを対象とした特別枠を設定する、通称「女子枠」。この女子枠を設置する大学が近年急増しており、今回の2025年度入試では国公立大学だけでも27大学以上が導入している。

各大学が女子枠を導入する主な目的は、社会的ニーズの反映、教育・研究環境の多様性と質の向上、ジェンダー平等とダイバーシティの推進などだ。実際に2024年度入試から女子枠を導入し始めた東京科学大学(旧・東京工業大学)は、入学者全体に占める女性比率が10.7%から15.3%に上昇した。

こうした取り組みの背景には、日本のSTEM(科学・技術・工学・数学)領域への女性の大学進学率が、OECD諸国の中で最低水準の19%に留まっているという現実がある。

日本では、長年「理数系は男性の方が向いている」といった無意識のバイアスや、ジェンダーステレオタイプ(特定の性に対する伝統的な固定観念)が社会全体に根付いている。理数系の進路に限らず、女子生徒は男子生徒に比べて浪人選択率が低く、これは難関大学への進学数低下に起因している。さらに、女子生徒は自宅から通える大学への進学を勧められる傾向にあり、女性であることによって、地域や家庭の環境が進路選択により大きい影響を与えることが指摘されている。

女子枠、賛否は二分

女子枠の導入は、アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)とされている。これによって理工学系の女子学生の数が増えれば、将来的に理工系の職業に就く女性の割合も増えるだろう。ロールモデルとなる女性が増えることで、理数系の学びやキャリアに関する社会全体のジェンダーバイアスが解消されていくことが期待される。

しかし、反対意見も多い。河合塾が高校1・2年生を対象に2024年11月に実施したアンケート調査によると、女子枠導入について賛成が56%、反対が44%と二分された。また、賛成の回答は前年比で約9ポイント減少していた。反対意見には、「入試は男女平等であるべき」、「(女子枠により)かえって男女差別になるのでは」といった回答があった。

また、女子枠で入学した学生へのスティグマ(否定的な捉え方)や、一般枠で入った女子にとって不利益を被らないような配慮が必要、などといった指摘がある。さらに、大学全体の学力低下や、「女性は理数系が苦手」というバイアスを強める懸念もある。

進む、草の根運動

女子の理工系志願者を増やすために、中高生への働きかけが進んでいる。東京科学大学は、工学部を新設したお茶の水女子大学および奈良女子大学と3大学合同で、優秀な理工系女子生徒の発掘・育成を目標とした教育プログラム「女子STEAM生徒の未来チャレンジ」を、2024年度より実施している。全国から選抜された女子高校生1・2年生の合同合宿や、各大学の研究室見学会などを実施し、交通や宿泊費の支援を行っている。

また、女子学生向けの奨学助成金事業などを手掛ける山田進太郎D&I財団は、大学や企業と連携して「Girls Meet STEM」を実施している。中高生女子を対象に、全国の大学の理工系学部のキャンパスツアーや、理工分野の企業のオフィスツアーを、現地とオンラインで体験できるプログラムを提供している。

一方、内閣府は「理工チャレンジ(リコチャレ)」として、女子中高生や女子学生が理工系分野に興味・関心を持って進路選択することを応援するため、理工系分野が充実している大学や企業などの情報を提供している。

ダイバーシティ推進のために

女子枠の導入に伴い、女子生徒が理工系の学問に興味を持てるよう、さまざまな取り組みが進んでいる。今後は、進路選択に影響を与える保護者や教員のジェンダーバイアスを解消するような取り組みも求められるだろう。

また、理工学系以外の分野においても、ジェンダーギャップを解消する取り組みが進みつつある。東京家政学院は、2026年度入試より「男子枠」を設定することを発表した。家政学・生活科学がジェンダーフリーな学問であることを広く認知させることが目的だ。さらにジェンダーだけでなく、国籍・出身地・年齢など、さまざまな多様性の包摂を目指していくべきだ。実際に、地方出身者枠や、家族の中ではじめて大学に進学するファースト・ジェネレーション枠などの取り組みも見られる。

いずれにせよ、こうした特別枠の設定は一時措置とすべきであり、各大学は到達目標を定めて十分な数が確保されれば、廃止すべきだろう。さらに、個々の学部のジェンダー比率の偏りはあくまで結果論であり、性別を問わず進路や学問分野の選択が周囲から尊重されるような環境を作ることが重要だと言える。無意識のバイアスをどう解消していくか、家庭・組織・社会全体で向き合うべき課題と考える。

(冒頭の写真はイメージ)