
乳児の泣き止み・寝かしつけを科学的根拠に基づきサポートするアプリを開発
東京科学大学生命理工学系の研究グループは、乳児の泣き止みや寝かしつけを科学的根拠に基づいて支援するアプリ「SciBaby(サイベビー)」を開発した。乳児が抱っこして運ばれると泣き止む「輸送反応」と、その後の抱き座りによる自然な眠りの誘導のタイミングを音声でサポートする。さらに、乳児に腕時計型センサを装着して脈拍データを取得することで、乳児の睡眠を予測するAI開発にもつなげる予定だ。
生後1歳までの乳児は通常よく泣くが、あまりにも泣き止まないと親へのストレスや、まれに虐待につながることもある。また、乳児の寝かしつけには、おんぶや抱っこ、ベビーカーでの散歩など、文化によってさまざまな方法が用いられてきたが、実際どの程度泣き止みや寝かしつけに効果があるのかを科学的に検証した研究は少ない。
研究グループの黒田公美教授は2013年に、親が乳児を抱っこして歩くとおとなしくなる現象「輸送反応」をマウスと人間の乳児で発見した。さらに2022年には、5分間連続して歩くことで、泣いていた乳児の半数近くが入眠することも示した。この時の研究では、乳児の心拍や脈拍などの状態を測定することで、よりよい寝かしつけのタイミングが分かる可能性も示唆されたが、当時は医療用心電計で測定しており、家庭で手軽に測定を行うことは困難だった。
今回、研究グループは乳児の生理的状態の計測に、ウェアラブルセンサとスマートフォンを利用するシステムSciBabyを開発した。SciBabyアプリをAndroidスマートフォンにインストールし、乳児がぐずっている、もしくは泣いているタイミングでSciBabyアプリの「抱き歩きモード」を起動し、腕時計型脈拍センサPolar Verity Senseを乳児に装着する。SciBabyの合図にそって親は5~10分間の抱き歩きを開始、その後8分間抱いたままで座り、布団に寝かせる。最後に乳児の状態を入力すると、東京科学大学のプラットフォームにデータが送信される。

実際に研究グループで30人の乳児を対象に300回の実験を行ったところ、5分間の抱き歩きによりはじめ泣いていた乳児のうち84.4%が泣き止み、また58.4%がその後の8分間抱き座り終了までに寝ることが分かった。一方で、布団に寝かせるタイミングで約20%の乳児が起きてしまうため、現在は機械学習などを使用し、最適な寝かしつけのタイミングを推定するための新たな研究に取り組んでいる。
SciBabyアプリは2月末よりGoogle Playでダウンロードを開始している。iOS版アプリも開発中とのこと。研究チームは今後、SciBabyによって集まったデータを機械学習等を用いて検証し、将来的には個々の乳児ごとに最適な寝かしつけや、お目覚めのタイミングを知らせることができるアルゴリズム開発を進めていく。
画像提供:東京科学大学(冒頭の写真はイメージ)