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[書評]『東北モノローグ』 13年の時を経て語られる3・11

東日本大震災から今年で14年。『東北モノローグ』は当時の様子が一人一人のモノローグ(独白)式で綴られている。著者はタレントで俳優、小説家のいとうせいこう氏で、2024年に発行された。

およそ300ページからなる本書には、17人の生の声が集められている。それぞれモノローグ式に書かれているが、実際は、いとうせいこう氏が一人一人の話を詳しく聞き、その対話を元に文章を作成しているため、質問に答えるように話者の「ええ」とか「そうです」などといった相槌が入っている。このリアルな対話の様子が、読み手にとっては臨場感があり、同時に、いとう氏という良い聴き手がいたからこそ、非常に深刻な生死にかかわる話や震災直後の緊迫した話も、自然に語ることができたのではないだろうかと、読み手に少しの安心感を与えてくれる。

ある章は、一人分の声が30ページにもわたって綴られている。これは東日本大震災から13年経っても語られてこなかったこと、そして語り続けたいことが山ほどあるのだということを感じさせる。

17人はいろいろなかたちで東日本大震災を経験したという。事情も一人一人異なり過ぎて、「自分は被災者だ」と声を大にして言えない人もいる、ということに衝撃を受ける。ある大学生は、家は流されたけど津波を見たわけではないから自分は当事者ではないと言い、「自分は語り部にはなれないけど、(話を伝えていく)語り手にはなれる」と自ら線を引く。しかし、当時小学5年生で記憶がはっきりしているギリギリの年齢だったからこそ、語り手としていろいろな人の「半径1mくらい」の「穴あき状態でしか覚えていない」ことをつなぎ合わせて全体像を残していけるのではないだろうか。

また、周りには震災で親を亡くした人がいなかったから自分の父親が津波で亡くなったことをなかなか言えなかった大学生もいる。当時、自宅の1階は浸水したが2階は無事だからと避難所にも行けず、援助も少なかったため、震災から10年以上経っても家を建て替えられない「在宅被災者」もいる。あの当時、声をあげたくてもあげられなかった人たちがいて、その苦しみが10年以上経ってもなお続いているところもあるのだと知った。

一方で、一人も犠牲者を出さないために震災前から防災に取り組んだ人、震災当日、ラジオを通して心細い思いをしている人たちに声をかけ続けた人、避難してきた人たちがゆっくり話せるようにお茶会の場所を準備した人、震災の記録を残そうと文学賞を立ち上げた人もいる。一人一人、違う年齢、違う立場、違う距離感で声をかけ続けた人がいるのだ。彼らの声は、当時自分は何もできなかったと後悔を抱えている読者たちに、今からでも何かできるかもしれないと背中を押してくれるだろう。

震災から10年以上が経ち、個人の状況や社会の状況も変わっていくとしても、当時を知る人々の生の声を変わらない文章としてこの先に残す重要性を、本書を通して強く感じた。

『東北モノローグ』
著者:いとうせいこう
発行日:2024年2月28日
発行:株式会社河出書房新社