国内の一級河川109本の「塩分濃度差発電」の出力予測値の算出を、山梨大学の研究グループが実施した。塩分濃度差発電は、再生可能エネルギーの一つとして有望視される発電方法だ。算出の結果、塩分濃度差発電で得られる電力は、太陽光発電や風力発電、その他の再生可能エネルギーによる電力と比べて大きくは劣っていないことが見出された。日本国内における塩分濃度差発電の有用性が定量的に実証されたことになる。この研究成果は国際学術誌に掲載された。
塩分濃度差エネルギー(Salinity Gradient Energy: SGE)とは、塩水と真水を混ぜたときに、その混合水から熱として放出されるエネルギーのことをいう。海岸沿いの河口周辺では、河川から海へ流れ出た淡水が海水と混じり合うため、膨大なSGEが生じ、大気中や海水中に逃げ去っていく。この日々捨て去られるエネルギーを活用するための技術が塩分濃度差発電だ。塩分濃度差発電は、天候や時間帯に左右されずに発電することができるため、太陽光発電や風力発電の弱点を補う再生可能エネルギー源として期待されている。
特に日本は塩分濃度差発電に適した地理的条件を備えていると言える。四方を海で囲まれているとともに、日本の年間降水量(約1700mm/年)は世界平均(約880mm/年)の2倍近くあり、国土の約4分の3が森林と山で占められて潤沢な水源が存在する。さらに島国である日本の河川の多くは、大陸を流れる諸外国の河川と比べると、短くて勾配が急峻で、日本の河川は塩分濃度差発電に十分な河川流量を備えていると推察される。しかし、これまで日本の沿岸域における利用可能なSGEの値を定量的に計算した研究はなかった。
今回研究グループは、日本の大規模な109本の一級河川について、河口付近における河川流量・水温・塩分濃度などの値を各種データベースから引用し、各河口において塩分濃度差発電を行った際に得られる電力とエネルギーを算出した。さらに塩分濃度差発電の計算結果を、既存の発電方法と比較した。その結果、塩分濃度差発電1基当たりの電力が、太陽光発電や風力発電、その他の再生可能エネルギーによる電力と比べて大きくは劣っていないことがわかった。太陽光発電や風力発電にはその発電量が天候や時間帯に左右されるという欠点があり、この弱点を補う形で塩分濃度差発電を活用することで、日本の再生可能エネルギーによるエネルギー供給率を高めることができる。
今回の研究結果は、今後日本で塩分濃度差発電施設の建設適地を検討する際の基礎情報になると期待できる。
画像提供：山梨大学（冒頭の写真はイメージ）