
海洋ごみ対策としてプラスチックに代わる透明な紙板を開発 JAMSTECら
海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京大学、東京理科大学は10日、深海汚染を引き起こすプラスチックの代替となる透明な紙板を開発したと発表した。コップやストローなど既存のプラスチック製品を代替でき、自然界で分解するため環境汚染を避けられる。この研究成果は米国科学誌「Science Advances」に掲載された。
JAMSTECの過去の研究で、深海底に多くのプラスチックごみが蓄積していることが明らかになったが、そのほとんどが使い捨ての包装容器である。このような海洋のプラスチックごみ汚染が顕在化したことにより、「海にやさしい素材」の研究開発が行われるようになった。
研究グループは、プラスチックに代わる素材として紙を検討した。紙は石油を使用しないバイオマス由来の素材であり、紙のリサイクルの工程は既に確立されている。また、意図せず海洋へ流出した際にも分解するという環境調和性に優れた素材である。しかし、包装容器として用いる際には、紙は「白い」という致命的な課題を抱えていた。
そこで同グループは今回、紙の環境調和性に透明性を兼ね備えた新しい素材である「透明な紙板」を開発。紙板とは紙パックのような包装容器に用いられる肉厚な紙のこと。新素材の透明な紙板は、原料は通常の紙板と同じ植物由来のセルロースである。厚みは0.3~1.5mmという通常の紙板と同等か5倍以上の厚みを持ちながらも高い透明度を示す。また、板状だけでなく立体的な形状に一体成形することも可能で、撥水性を付与することでコップやストローなど既存のプラスチック加工品を代替することもできる。
この透明な紙板は、セルロースを臭化リチウム水溶液で高温溶解し、室温で静置して固めることで作られる。これによりセルロースが分子レベルで再構築され、光の散乱を防ぐ均一な構造が得られる。次に水洗して溶剤を除去し、乾燥して透明な板紙が完成する。この工程により、繊維間の空隙や乱れが抑えられ、高い透明性が実現される。さらに使用した溶剤や水は再利用可能で、環境負荷も低く抑えられる。原料のセルロースは古着や古紙といった廃棄物を用いることもでき、リサイクルが可能だという。
さらに同グループは、この紙板の海洋における生分解性を実際の深海底への長期間設置によって評価した。三崎沖(757m)、初島沖(855m)、南鳥島沖(5552m)で実験したところ、生分解速度は水深が深くなるにつれて遅くなるものの、全ての場所で紙板は生分解された。この実験より、透明な板紙でできたカップは、水深約700~1000 mの深海底では6ヶ月間から1年間で完全に生分解されると推定できるという。
この研究によって同グループは、プラスチックに代わる透明な紙板という「海にやさしい素材」を開発することに成功した。今後は、実用化のために「連続製造工程の確立」と「使用済み溶剤の回収・再利用を高効率化すること」という課題解決を目指していくという。



画像提供:JAMSTEC(冒頭の写真はイメージ)