宇宙の膨張速度、ビッグバン直後より5~9%速いことが判明
米航空宇宙局(NASA)は3日、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)を用いて遠方の銀河までの距離を測定し、宇宙がこれまで考えられていたよりも5~9%速く膨張していると発表した。詳細は、米学術雑誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に近く掲載される。
宇宙望遠鏡科学研究所(STScI:HSTの運営主体)の研究員でジョンズ・ホプキンス大学教授のアダム・リース研究リーダーらのチームは、ケフェイド変光星とIa型超新星の両方が存在する銀河を探した。ケフェイド変光星は本来の明るさに応じて光の強さが変化し、Ia型超新星は宇宙のどこにあっても同じ明るさで爆発する。どちらも本当の明るさを理論的に知ることができるので、観測上のみかけの明るさと比較することで正確な距離が決定できる。こうして19の銀河で約2400個のケフェイド変光星を観測してみかけの明るさを校正した上で、さらに遠く離れた約300個のIa型超新星までの距離を正確に測定した。
その結果、宇宙の膨張速度(ハッブル定数という)は不確定性2.4%という正確さで、1メガパーセク(326万光年)あたり毎秒73.2kmであるとわかった。この値は、宇宙空間が98億年で2倍に増えることを意味する。
今回の値はビッグバンから38万年後のデータである宇宙背景放射の観測から算出された値と異なっている。NASAが2001年に打ち上げたウィルキンソンマイクロ波異方性探査機(WMAP)衛星のデータから計算された値より5%大きく、欧州宇宙機関(ESA)が2009年に打ち上げたプランク衛星のデータから計算された値より9%大きい。なお、WMAP衛星よりプランク衛星の観測データの方がより高精度で、WMAP衛星のデータから2003年に宇宙の年齢は137億年とされたが、プランク衛星のデータにより2013年に138億年であったと修正されている。
アダム・リース研究リーダーは、「この驚くべき発見は、暗黒エネルギーや暗黒物質、暗黒放射など宇宙の95%を構成する神秘的な部分を理解する重要な手がかりとなるかもしれない」と述べた。彼は、宇宙の加速膨張の観測に関する研究で2011年にノーベル物理学賞を受賞している。
このハッブル定数の不一致を説明する、いくつかの可能性が挙げられている。第一に、宇宙を加速膨張させる暗黒エネルギーが、宇宙が膨張するにつれて一層強く互いを引き離しているというもの。第二に、初期の宇宙に光の速度に近い「暗黒放射」と呼ばれる、ニュートリノなどの既知の素粒子が含まれているというもの。第三に、今日の宇宙に見られる大規模構造を構成する暗黒物質が、予想外の特性を持っているというもの。第四は、重力に関するアインシュタインの理論が不完全であるというもの。
いまだ隠されていたものが、明らかになる日も近いと言えそうだ。
(画像提供:NASA)