【コラム】いすみ鉄道~「ローカル線療法」の旅~(3)
ローカル線「いすみ鉄道」の旅は続く。
前回、大多喜駅で対面した2両編成の「気動車」は、終点の上総中野行き。しばし気動車の思い出に浸る。大多喜駅を出発すると、しばらくは田園風景が続く。
その後、渓谷を渡って森に入る。
大多喜駅から20分ほどで、終点の上総中野駅に到着。
スタジオジブリのアニメにでも出てきそうな駅舎。駅前には見事なぐらいに何もない。
10分後に、折り返して、<急行>となって、大原へ向かう。
この<急行>は、途中で写真をとったりできるように長く停車する駅がある。このため、急行料金を300円とるのに、何と<普通>より所要時間が20分も長い。それだけ長く楽しめるということで、鉄オタ心をいたく刺激するサービスである。
「ローカル線療法」のメカニズム
大原駅に着くまでの時間、ノスタルジーにドップリ浸ることができ、「ローカル線に乗ること」の健康への効用を考えてみた。
都会に住み、頭脳労働や感情労働に従事していると、精神的に強い刺激に暴露される。一方で、温度も湿度も調整された人工的な環境にいる時間が長いために身体的刺激は不足している。その結果、五感が鈍くなり、交感神経が緊張した状態が続くので、リフレッシュしないとコルチゾール(ストレスへの耐性をつかさどるホルモン)が不足して、慢性疲労におちいる危険がある。
そのような状態の時、いすみ鉄道のようなローカル線に乗ることは、リフレッシュするのに有用ではないだろうか? 年季を経ているが、キチンと整備されている車両は、磨き上げられて黒光りしている古民家に通じるものがある。最高時速40kmぐらいというのは、ホッとする<遅さ>である。そして、窓を開け放って乗るので、風と一緒に虫も入って来る。ディーゼルエンジンの音が盛大なので、五感がフル稼働して脳がリフレッシュする感覚がある。
線路は続くよ、どこまでも
帰宅してから、改めて鳥塚亮社長の「いすみ鉄道 社長ブログ」を読んでみた。さまざまな障害を越えて成功をおさめた経緯を知った。筆者が読んだ限りでは、経営改革の最大の障害は守旧派、つまり「いすみ鉄道廃止を叫んだが、多くの人に来てもらうために、思考と行動を変化させない地元の人達」である。2015年4月7日のエントリーには以下にように書いてある。
町の実力者の中には、「観光なんて遊びだ」と思っている人もいますから、「観光客が来るとトイレが汚れる。」とか、「観光客が来るとゴミが増える。」などと考えている人もいますし、この観光客を町の経済に取り込んで、大多喜から地方創生をやろうなんてことは、全く発想に無いのが実情です。
この批判に続いて、ムーミン列車と国鉄型気動車を走らせるに至った経緯を書いてある。
鳥塚社長は国内での成功にとどまらず、2014年には台湾の「集集線(じじせん。いすみ鉄道と共通するものがある観光鉄道)」との姉妹鉄道提携を結んでいる。国内でもマイナーだった鉄道をメジャーにさせ、海外にも打って出るスピリットが素晴らしい。現実として、いすみ鉄道の目玉である国鉄型車両は老朽化が進んでおり、いずれ廃車にせざるを得ないことをはじめ、今後もさまざまな障害はあるだろうが、今後も目が離せない。
(終)
参考記事
【コラム】いすみ鉄道~「ローカル線療法」の旅~(1)(2016/06/21)
【コラム】いすみ鉄道~「ローカル線療法」の旅~(2)(2016/06/23)
いすみ鉄道の名物社長が退任 廃線寸前から人気路線へ(2018/05/24)