光や音が発生したタイミング 時間をさかのぼって知覚
情報通信研究機構(NICT)の天野薫主任研究員らは、光や音が人の意識に上る前に、それらが生じたタイミングを知覚していることを発見した。この発見は、今後、テレビ通話などの音声と画像遅延の許容範囲の解析などに応用できるという。この研究の一部は、科学技術振興機構(JST)「さきがけ」の支援で行われ、成果は神経科学の国際科学誌『eNeuro』で8月31日に掲載された。
視覚や聴覚などによる外界の知覚は、それぞれの情報が脳内で別々に処理された後、統合されて生じる。その際に、光と音が発生したタイミングの情報は重要な手がかりとなる。しかし、これまで、光や音が生じたタイミングを知覚することについて、脳内のメカニズムはわかっていなかった。
今回、被験者には画面を見ながら、多数のドットがランダムに動いている状態から、ドットの一部が右または左に動く状態に切り替わる動画を使って、2つの課題に取り組んでもらった。1つ目の課題は、ドットの動きが右または左の動きに切り替わったのが見えたら、できるだけ早くボタンを押すというもので、「動きを知覚するのに要する時間」を測定。もう1つの課題は、動きが見えたタイミングと、その前後に鳴った音とが同時であるか否かを回答するというもので、「動きが生じた時間をどのように知覚したか」を測定した。実験の結果、前者の実験では、動きが変わるドットの割合が減少するとともに知覚に要する時間が長くなったのに対して、後者はあまり影響を受けなかった。
また、課題に取り組んでいる時の被験者の脳の活動を脳磁計(MEG)で計測。実験で測定した「動きの知覚に要する時間」と、「動きが生じた時間の知覚」は、いずれも感覚入力に対する脳活動が、反応のおこる境目の値(
研究チームは、人が光や音に気付いた瞬間と、「それらが生じた」と感じるタイミングが異なるというのは一見、直感に反するが、タイミングの情報を正確に知覚することは情報の統合に不可欠であり、より早くタイミング情報を取得することは合理的だとしている。
今回得られた成果は、テレビ通話や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などにおける音声と画像の遅延の許容範囲の解析などに応用できる。
画像提供:情報通信研究機構(NICT)