爆弾低気圧と黒潮の関係が、地球シミュレータで明らかに
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の吉田聡研究員と北海道大学の見延庄士郎教授は、JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いた実験で、短時間で急発達する「爆弾低気圧」が黒潮の存在によって日本付近に集中しているということを発見した。米国気象学会が発行する専門誌「ジャーナル・オブ・クライメート」電子版に21日付で掲載された。
これまで中緯度では、大気が海洋の動きを引き起こすと考えられてきた。しかし、熱帯から中緯度に流れ込む黒潮などの暖流によって海面水温が急激に変化する領域では、中緯度でも熱帯と同様に海洋が大気に影響を及ぼすことが明らかになってきた。黒潮や黒潮続流域で爆弾低気圧が集中して発生するのは知られていたが、どのような仕組みで起きているのかは分かっていなかった。
今回、50kmごとのデータを計算する地球シミュレータの大気モデルに、人工衛星で観測された25kmごとの日々の海面水温を20年間分与えた場合と、北西太平洋域で黒潮や黒潮続流の影響を除いた海面水温を与えた場合の実験とを比較。黒潮のあり・なしが大気に与える影響を調べた。その結果、1月に黒潮が存在すると、観測と同じく爆弾低気圧が北西太平洋に集中して発達した。その下流にあたる北東太平洋上のジェット気流の南北蛇行は活発になり、北米西岸やハワイ付近の降水量に影響することが示された。一方黒潮がない場合、爆弾低気圧の発達域は東に移動した。
さらに、黒潮と爆弾低気圧との関係を詳細に調べた結果、低気圧が黒潮上を通過する際に、黒潮から蒸発する水蒸気を取り込むことで低気圧中心付近の降水量が増加。水蒸気が雨に変化する際の凝結熱をエネルギー源として、爆弾低気圧が急発達していることが明らかになった。黒潮が熱帯から運んできた熱が爆弾低気圧のエネルギー源となり、北太平洋の大気循環と降水分布にまで影響を与えていることが示された形だ。
現在、地球温暖化の気候モデルの多くは100km以上の精度で、爆弾低気圧や黒潮などを再現できるほど細やかなデータを得られない。今回の成果が今後の将来予測や今後の気候モデル開発に大きな影響を与えることが期待される。
画像提供:JAMSTEC