放射性廃棄物の資源利用へ挑戦 理研
理化学研究所(理研)の
放射能の低減めざし研究
原子力発電所などで、使用済み核燃料の再処理に伴って生じる高レベル放射性廃棄物には、「超ウラン元素」(ウランよりも原子番号の大きい元素)と「核分裂生成物」が含まれる。これらはガラス固化して地下深くに埋められることになっているが、放射性を長期間保つLLFPが含まれているために長期保管には不安があり、処分場がなかなか決まらないことも問題となっている。
超ウラン元素については、高速中性子を利用した「核変換」が長年研究されている。一方で、核分裂生成物の核変換反応のデータはほとんど取得されておらず、放射能を効率よく低減するための開発は進んでいない。後世への負担を軽減するため、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が進めるImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」では、放射性廃棄物から有用元素を回収して資源利用する方法や、LLFPを取り出して短寿命核種もしくは安定核種に核変換することで放射能を低減する方法の開発に取り組んでいる。
使用済み核燃料から有用元素パラジウム回収へ
今回、研究チームがLLFPである107Pdに着目したのは、Pdが自動車用触媒などに利用される有用元素であるためだ。使用済み核燃料1トン当たりPdは約1kg含まれており、そのうち107Pdは約150gを占める。残りの約850gのPd同位体(102Pd、104Pd
、106Pd、108Pd、110Pdなど)は、そのまま資源として活用できる。
取り出した107Pdの放射能を低減するため、高エネルギーの陽子や重陽子ビームを壊したい核種に衝突させて壊し、他の軽い核種に変える「核破砕反応」に着目。RIBFを用いることで107Pdをビームとして取り出し、陽子と重陽子を標的に照射することで、世界に先駆けて107Pdの核破砕反応の確率(反応断面積)の測定や反応で生じる生成物の組成データを明らかにした。
「核破砕反応」のデータ、世界で初めて取得
この核変換反応で、650万年という非常に長い寿命を持つ107Pdから生成された核種は、安定核が63.5%、半減期1年以下が19.5%、同1~30年が9.3%、同30~1000年が0.3%、同1000~3万年が1.4%、同3万年を超えるものが6.0%の割合であった。また、長寿命の放射性核種が生成される割合は、標的の陽子や重陽子の全運動エネルギーが低いほど少なく、陽子と重陽子を比較すると、重陽子の方が小さいことが分かった。この結果から、反応により生成されるLLFP核種の割合を小さくするためには、重陽子の方がよいと考えられる。核破砕反応が起こる確率は、熱中性子捕獲反応の10分の1程度であり、加速器から得られるビーム強度を大きくできれば、核変換反応として有用となる可能性がある。
藤田玲子プログラム・マネージャーは、「理研のRIBFを用いるとLLFPのビームを作製できることから、放射性のターゲットを準備しなくても測定することができる。今回はLLFPの一つである107Pdの核破砕反応のデータを世界で初めて取得することに成功した。本成果は、高レベル放射性廃棄物の低減・資源化へ向けた大きな一歩になると考える」とコメントした。
画像提供:理研