NASAが提案 火星の環境を改造する「テラフォーミング」、その内容は?
サイエンス・フィクション(SF)や漫画では、人類が地球以外の惑星で居住する姿がしばしば描かれる。その中には、人類が居住できる環境に惑星を改造する「テラフォーミング」を扱っているものもある。米航空宇宙局(NASA)は2030年代初めに、地球のすぐ外側を回る火星に人類を送り込もうとしているが、火星は地球よりも気温が低く、大気も希薄だ。そんな火星に送り込まれた宇宙飛行士には、アポロ計画で月面に着陸したときと同様に宇宙服の着用が欠かせないだろう。この火星の環境をどのように「改造」すれば、宇宙服なしでも居住できるようになるのだろうか。
このほど、NASAが開催した「惑星科学ビジョン2050」というワークショップで、火星の環境を改造する具体的な方法が提案された。
環境改造へのアプローチ
火星は、かつては北半球の30%を覆うほどの海洋があった可能性があるが、現在は凍っており、大気は希薄になっている。原因は3億年以上前に磁気圏を喪失したことによって、火星大気が太陽風に直接さらされるようになったことだ。
そこでNASAが提案しているのが、人工的に磁気圏をつくることだ。これにより、太陽風から火星の大気が守られ、大気の損失が止まり、時間の経過とともに気圧が回復するという。それに伴って気温も上昇するため、火星の極冠にある二酸化炭素の氷(ドライアイス)が溶け、大気中の二酸化炭素濃度が上昇すれば温室効果で更に気温が上昇していくことになる。
人工磁気圏をつくるには
それでは、どうやって人工的な磁気圏をつくるのだろうか? NASAの提案では、火星と太陽を結ぶ直線上で、両者の間で重力が釣り合う位置(ラグランジュポイント L1)に、人工的に十分な大きさの磁場を発生させる装置を置けばいいという。おそらく1~2テスラ(1万~2万ガウス)の磁場を発生させれば、太陽風に対する十分な防御になる。この程度の磁場を発生させる装置は、すでに実用化されている。
今回提案された方法で、人類が火星に宇宙服なしで居住できるようになるかはわからない。しかし、SFや漫画で描かれた世界が、もう少しで手が届きそうなほど近づいてきている。
画像提供:USRA