ドイツではなぜEVが普及しないのか? EV天国ノルウェーとの違い
電気自動車(EV)の普及が爆発的に進むノルウェーと対照的に、自動車大国ドイツではEVの売れ行きが一向に上がらない。その理由はどこにあるのか? 7月31日付のドイツ・ツァイト紙オンライン版が報じた。
EVの購入奨励金に効果なし
ドイツ政府はすでに6カ月前から、EV購入に際して4000ユーロ(約51万5600円)の購入奨励金を提示。しかしこれまでに支払われた奨励金はわずか200万ユーロ(約2億5780万円)で、これは政府が用意した金額全体の7%に満たないという。ドイツ政府は2020年までにEV利用者が100万人に達することを目標としているが、実現は現時点で非常に厳しいと言えそうだ。
2017年上半期の新車購入台数のうち、EVの割合はわずか0.6%、さらにプラグインハイブリッド車(PHV)の割合は0.7%で、98.7%はいまだにガソリン車およびディーゼル車などの内燃エンジン搭載車だった。新車購入後の使用年数は平均18年と言われており、2030年以降もドイツの道路は内燃エンジン搭載車が大多数になると予想される。
「購入を考える人」は多数、しかし…
ドイツ車メーカー6社を含めた合計20社のEVがドイツ政府の購入奨励金対象となっており、小型車からファミリー車、さらにスポーツカーまで100種類以上のモデルがある。EVのイメージは近年確実に向上しており、コンサルティング会社マッキンゼーのアンケートによると、ドイツ人の2人に1人はEVの購入を実際に考えているという。しかし現実はどうか? ふたを開けてみると結局、EV購入を思いとどまる人が多いことが明らかになっている。その理由はどこにあるのか? 同アンケート調査では、4つの「不安」が理由として挙げられている。
それは、(1)電池が切れることへの不安 (2)EVインフラ不備への不安 (3)高い購入価格への不安 (4)未知のものへの不安、だという。
ノルウェーとの違いはどこにあるのか?
ノルウェーの人口は500万人、これに対しドイツの人口は8000万人だが、ノルウェー全体でのEVの数はドイツの3倍に当たる。3人に1人のドライバーがEVを所有し、首都オスロにいたってはこれが2人に1人になるというEV天国ノルウェーとドイツの違いはどこにあるのだろう?
ノルウェーでは、政府がディーゼル車に対する厳しい規制を打ち出しており、2025年以降はガソリンおよびディーゼル車の新規登録禁止を目指している。一方で、EV購入の際の税金の免除や、EVに対する駐車場優遇およびバス車線走行許可など、さまざまな優遇措置が取られていることも大きい。実際、EV普及支援のための予算額はノルウェーが年間4億ユーロ(約515億6000万円)で、これに対してドイツは60億ユーロ(約7734億円)だが、過去12カ月で実際に活用された金額はこのうちわずか1%だけだという。
自動車メーカーの有無、環境保護の意識の違い
さらにノルウェーとドイツの違いとして挙げられる2つの重要なポイントがある。1つ目は、ノルウェーには自動車メーカーがないということ。今、ドイツのメーカーが陥っているディーゼル車排ガス不正問題などとは無縁であり、EVの普及が自動車業界における労働市場を脅かす心配もない。
もう1つは、ノルウェーでは車以外の動力においても水力発電を中心とするクリーンエネルギーのみが使われているという点だ。これに対しドイツの電力は今も70%が石炭、天然ガス、そして原子力エネルギーによって生産されている。
※1ユーロ=128.9円で換算(8月24日時点)
(冒頭写真は、ベルリン市内に点在する電気自動車用ポール型充電機)