平昌五輪でノルウェーがメダル最多39個 日本13個との差はどこに?
25日に閉幕した
「スキー板を履いて生まれてきたノルウェー人」
「私たちノルウェー人は、スキー板を履いて生まれてきたようなものです。ノルウェーでは本当にたくさん雪が降るので、雪の中で活動することは文化の一部でもあるんです」
アルペンスキーの女子大回転で今回、銀メダルを獲得したラングヒル・モヴィンケル選手はそう語る。ノルウェーでは、欧州中部での「寒さ」は「涼しさ」に過ぎない。雪と暮らすことの寒さや不便さに鍛えられているのがノルウェー人だという。そしてモヴィンケル選手は、ノルウェーがなぜ冬季スポーツに強いのかという質問に対して、「お互いを助け合う仕組みがあることは大きいと思います」と答えた。
「ノルウェー人は我々のいいお手本です」と語るのは、アルペンスキー男子のドイツ代表、アンドレアス・ザンダー選手。ドイツの選手チームを率いるザンダー選手は、ノルウェーチームが要所要所で集まっては情報交換をする習慣と結束の強さを指摘する。
公的助成が充実のドイツと、民間団体が支えるノルウェー
ドイツとノルウェーの、冬季スポーツのアスリートを支えている仕組みの違いを見てみよう。ドイツの選手に多い職業が、警察官や連邦軍兵士などの公務員。そしてドイツ選手を支えているのは、国が助成している公的基金などの団体だ。一方、意外なことにノルウェーには、国がスポーツ選手を直接支援する仕組みはほとんどない。唯一、国の支援によるものが奨学金制度で、これの支給額は年間8000~1万ユーロ(約105万~131万円)。ノルウェーで支援組織として大きな役割を果たしているのは、民間のスポーツ団体なのだ。独立した財政システムを持ち、選手を経済的に支援し、さらに従業員として雇用している場合も少なくない。オリンピックの控え選手は、夏季はスーパーマーケットでアルバイトをしたり、スポーツショップの店員をしたりというケースもある。実際、今大会の男子スキージャンプ競技で金メダルを獲得したダニエル=アンドレ・タンデ選手も、かつてはそのような生活をしていた時期があった。タンデ選手は2年前、ノルウェーの民放テレビ局からドキュメンタリーフィルム出演のオファーを受け、これがその後、スポンサーを獲得するきっかけにつながったという。
メダル受賞者が「名誉」で稼げるノルウェー
ドイツでは、オリンピックのメダル受賞者には国から、金メダルには2万ユーロ(約263万円)、銀メダルには1万5000ユーロ(約197万円)、銅メダルには1万ユーロ(約131万円)の特別ボーナスが支給される(税金免除なし)が、この褒賞制度もノルウェーには存在しない。ノルウェーのアスリートが国から得られるものは、メダル受賞者として受ける栄誉だけ。しかし、メダリストとしての名誉があれば、たとえばクロスカントリーの選手ならば十分な稼ぎを得ることができるほど、このスポーツの人気はノルウェーで高い。これ以外にも、冬季スポーツが独立したビジネスとして成り立つのがノルウェーの特徴で、若いオリンピック選手が家族でスタートアップ企業を立ち上げるケースも少なくないという。スポーツ選手を支援する公的な仕組みがない一方で、選手にはセルフプロデュース力が求められる。
「スポーツ選手の独立性が、選手の強さを作っているのだと思います」と、バイアスロンとクロスカントリーの金メダリストで、ノルウェーではスター的存在のオーレ・アイナル・ビョルンダーレン氏は語っている。
今回の平昌五輪で、日本は金メダル4個を含む計13個のメダルを獲得。合計メダル獲得数で11位に入るという健闘ぶりを見せた。しかし、冬季スポーツの競技人口が圧倒的に多いノルウェーやドイツに比べると、日本での冬季スポーツの認知度は低く、メダル獲得に到るプロセスにおいてアスリート個人の努力に負うところが大きいと指摘されている。冬季スポーツが文化として広く浸透し、それを支える仕組みが国や社会に存在するノルウェーやドイツ。オリンピックでの強さの秘密は、そこにあると言えそうだ。
*1ユーロ=131円で換算(2月28日時点)
(写真はイメージ)