「パリ協定」 温度とゼロ排出の2つの目標は必ずしも一致しない?!
国立環境研究所とアメリカ大気研究センター(NCAR)は、パリ協定の温度目標と温室効果ガス排出をゼロにするという目標の整合性を検証。これら2つの目標は必ずしも一致せず、削減に早期から着実に取り組まなければ、排出をゼロにしても、温度目標を達成するには不十分な場合があることが明らかとなった。27日に英科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に掲載された。
「パリ協定」は、気候変動の脅威に対応する世界的な取り組みとして2015年12月に採択された。産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える(理想は1.5℃未満)という「温度目標」と、各国が温暖化の原因となる温室効果ガス(二酸化炭素やメタン等)の排出を今世紀後半に正味ゼロまで下げるという「ゼロ排出目標」の2つを掲げている。しかし、ゼロ排出目標が温度目標を達成するのに十分であるのかなど、この2つがどのような関係にあるのかは十分に解明されていなかった。
「パリ協定」、急激な排出削減でも温度目標が達成できる?!
NCARが今回、コンピュータシミュレーションで様々な可能性のシナリオを分析し、排出削減と温度目標の関係の解明を試みたところ、2つの目標は必ずしも一致しないことが分かった。また、短期的に急激な排出削減を行えば、正味ゼロまで排出削減を行わなくとも温度目標が達成できる可能性があることも示された。例えば、1.5℃目標には、2033年までに約80パーセントもの排出削減、2℃目標には、2060年までに約3分の2の排出削減が必要になる。いずれの場合も、その後はその排出量を保てばよく、正味ゼロ排出までは進まない。
しかし、そのような急激な削減は困難なため、気温が一時的に目標を超過し、今世紀末までに1.5℃や2℃上昇に戻るシナリオも検討された。それによると、1.5℃一時超過シナリオでは、2070年までに温室効果ガスの排出は正味ゼロになり、その後、今世紀中は正味負に保たれる(負の排出には大気から二酸化炭素を回収する活動が必要)。2℃一時超過シナリオでは、2085年までに排出はゼロになり、その後は負になるが、負である期間は1.5℃一時超過の場合よりも短くなるという。
一方、排出を正味ゼロまで削減しても、削減に早期から着実に取り組まなければ、温度目標を達成できない可能性があるという。今世紀中頃(2060年)に正味ゼロ排出になる場合と今世紀最後(2100年)にそうなる場合を分析したところ前者の場合、気温は2℃目標付近でピークを迎え、その後下がることが分かった。後者の場合、気温は2043年に2℃上昇を超え、約1世紀の間、もしくはそれ以上の間、2℃上昇まで戻らないという。したがって、ゼロ排出を達成するタイミングが非常に重要になり、パリ協定で明記されている今世紀後半ゼロ排出という目標を達成しても、排出削減が遅ければ、同じく明記されている温度目標を大きく外れることがあると指摘されている。
温暖化対策の進み具合を「ストックテイク(棚卸し)」
パリ協定の目的及び長期的な目標の達成に向けた、国際社会全体の進捗状況を評価する仕組みとして「グローバル・ストックテイク」が設けられている。この報告と調整を行なう期間は、パリ協定の中で正式に規定され、5年ごととなっている。今回の研究や他の関連研究は、パリ協定で提示されている目標に向け、どのような取り組みが必要かを世界各国がより明確に認識する手助けになるかもしれない。第1回のグローバル・ストックテイクは2023年に開催される予定だ。
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