衛星あかり、小惑星に「水」観測 地球の水の起源解明にも期待
神戸大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学の研究グループは、赤外線天文衛星「あかり」での小惑星観測データから、天体内部に水を含む「含水鉱物」の存在を示す特徴を世界で初めて捉えた。さらに、現在はやぶさ2が探査している小惑星「リュウグウ」と同タイプの小惑星がどのように進化してきたかが明らかになった。今後、太陽系の水の分布や小惑星の起源と進化だけでなく、地球の水や生命の起源への理解も進むと期待される。研究成果は「日本天文学会 欧文研究報告(PASJ)」電子版に17日付で掲載された。
「水の惑星」の起源は小惑星?
地球は「水の惑星」と呼ばれるが、この水は地球形成時からあったものか、形成後に外部からもたらされたものか、まだ完全には明らかになっていない。一方、太陽系内の他の天体にも水が存在していたことが分かってきた。その中で、小惑星は地球に水をもたらした有力候補の一つと考えられている。
小惑星の含水鉱物は、分光観測をすると赤外線帯域にあたる波長2.7マイクロメートル付近に特徴的なパターンがあることが知られているが、この波長帯は地上の天文台からは大気中の水蒸気や二酸化炭素によって遮られ、精度よく観測できない。宇宙空間であれば精度よく観測できるが、これまでこの波長帯の観測は十分に行われていなかった。
66個の小惑星を観測
2006年2月に打ち上げられた赤外線天文衛星「あかり」には、近赤外線(波長2~5マイクロメートル)の分光観測を行う機能があり、2008年5月から2010年2月にかけて66個の小惑星を観測した。
小惑星は、大きくC型とS型に分類され、C型は黒っぽく見える天体で、水や有機物に富んでいると考えられている。今回観測したC型の17天体では、波長2.7マイクロメートル付近の光を顕著に吸収する特徴があった。
C型小惑星をさらに詳しく調べてみると、波長2.7マイクロメートル付近の吸収が最も深くなる波長と、吸収の深さ(含水鉱物の量、すなわち水を含む割合を示していると考えられる)との間に明確な関係性が見いだされた。これは、生成された含水鉱物が、何らかのエネルギーによって加熱されて、徐々に水を失っていく傾向(加熱脱水)を表しているという。加熱のエネルギー源としては、太陽からのプラズマ(太陽風)の影響、微小隕石の衝突、岩石中の放射性同位体の崩壊熱などが考えられている。
太陽系の歴史を知るヒントに
これまで、隕石の測定からこのような傾向があることは考えられていたが、実際の小惑星で確認されたのは今回が初めて。多くのC型小惑星の分光観測データが系統的な傾向があるため、今回見られた小惑星から徐々に水が失われていく(加熱脱水)作用は、C型小惑星において普遍的に起こる現象と考えられる。
また、含水鉱物の存在が多くのC型小惑星で確かめられたことから、C型小惑星は太陽系形成初期に岩石と氷が集まって作られた天体であり、その天体内部での化学反応によって含水鉱物が生成されており、さらに小惑星が形成されたのちに二次的に加熱されているということが明らかになった。このような温度環境の変遷は、小惑星が経験した太陽系の歴史を考える上で重要なヒントになる。
水を含まないS型小惑星にも水
一方、岩石質のS型小惑星は、従来は水を含まないと思われていた。実際、今回観測したほとんどのS型小惑星に含水鉱物は検出されなかったが、例外的にわずかな含水鉱物の兆候を示す天体がいくつか存在することが新たにわかった。このようなS型小惑星に発見されたわずかな水の兆候については、含水鉱物を含んだ別の小惑星の衝突によってもたらされたものと考えられる。現在でも小惑星同士の衝突は起こっているが、太陽系形成初期には小惑星のような小さな天体の数は現在よりもっと多く、衝突現象はより頻繁だったはずだ。地球も多くの小惑星との衝突を経験してきたであろうことから、地球に存在する水の少なくとも一部は、このような衝突によって小惑星からもたらされたと想像できる。
はやぶさ2のリュウグウ観測にも期待
現在、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」とアメリカの「オサイリス・レックス」(OSIRIS-REx)が、それぞれ小惑星リュウグウとベヌーの探査を行っている。両者とも波長2.7マイクロメートル付近を分光観測できる装置を搭載している。このような探査機による小惑星の現地での観測は、地球上の天文台や地球周回の宇宙望遠鏡からは見ることのできない天体表面のクレーターや地形、表面物質の分布の地域差など非常に詳しく調べることができる。
一方、今回のような望遠鏡による多数の天体の網羅的な観測では、探査機が詳しく調べた天体の性質が一般的なものなのか、あるいは例外的なのか、という太陽系の中での位置付けを示し、全体的な進化のシナリオを考えることができる特長がある。
画像提供:JAXA