睡眠が持つ機能的意義の一端が明らかに

睡眠が持つ機能的意義の一端が明らかに

大阪市立大学の宮脇寛行助教らは、睡眠によって大脳と海馬という異なる脳領域がそれぞれ違う制御を受けていることを明らかにした。同助教はラットを用いて記憶中枢の「海馬」と高次機能中枢の「大脳」の睡眠時における神経細胞の活動を解析。その結果、海馬と大脳では異なる活動制御を受けており、睡眠によってそれぞれの脳領域が最適な状態にリセットされている可能性が示された。この成果は1月24日に国際学術誌『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載された。
 

神経細胞は脳領域毎に制御が異なることが判明

哺乳類の睡眠では、1回の睡眠でレム睡眠とノンレム睡眠という2種類の睡眠状態が交互に数回繰り返され、それぞれ異なる脳神経活動が見られる。近年、レム睡眠とノンレム睡眠がそれぞれ、脳神経系の活動に大きな影響を与えることが明らかにされてきた。しかし、神経細胞の発火活動は同じ神経細胞種であっても細胞間で100倍以上もばらつきがあり、活動の高い細胞と低い細胞が同じ制御を受けているか否かは明らかではなかった。(発火活動とは、シナプス伝達の結果、活動電位(細胞膜に生じる一過性の膜電位の変化)が発生すること。)また脳はさまざまな領域に分かれているが、睡眠による神経活動の制御が脳領域の間でどのように異なるのかも明確ではなかった。

今回、自由に行動しているラットの海馬と大脳から、超微小シリコン多点電極を用いて記録された睡眠時の神経細胞の活動を解析した。その結果、海馬ではレム睡眠の間に神経発火が抑えられ、その抑制は活動の低い細胞でより顕著にみられた。一方、大脳ではレム睡眠の間に神経発火が活発になり、発火活動の高い細胞でより強く高まっていた。海馬と大脳ではレム睡眠によって抑えられるか高められるかという違いはあるものの、神経細胞間の活動のばらつきが大きくなっていた。対照的に、ノンレム睡眠の間には活動のばらつきが小さくなる変化が海馬・大脳の両方で見られた。
 

睡眠中に行われている「脳のリセット」

次に、数回のノンレム睡眠とレム睡眠を含む、睡眠全体を通して見られる変化を、神経細胞間の活動変化の違いに注目して解析した。その結果、海馬では活動の低い細胞での減弱がより顕著であったのに対し、大脳では活動の高い細胞の活動低下がより顕著であった。つまり、睡眠による脳神経細胞の活動制御が、神経細胞の活動状態と脳領域によって異なることを示した。これらの差は、それぞれの脳が担う機能に応じて適した神経活動のばらつきが異なり、睡眠によってそれぞれの脳領域が最適な状態にリセットされている可能性を示す。

これらの結果から、睡眠によって大脳と海馬という異なる脳領域がそれぞれ違う制御を受けていることが明らかになった。近年、それぞれの脳領域の機能は急速に解明が進んでいる。そのような知見と今回の結果を総合して研究を進めることで、睡眠が持つ機能的意義の全容解明が期待される。

(写真はイメージ)