東大入学式祝辞「恵まれた環境と能力を、人を助けるために」上野千鶴子氏
12日に行われた東京大学の入学式での祝辞が話題になっている。祝辞を述べたのは、同大名誉教授で、女性学、ジェンダー研究のパイオニアである上野千鶴子さん。
「ご入学おめでとうございます。あなたたちは激烈な競争を勝ち抜いてこの場に来ることができました」とはじめた上野さんが続けて語ったのは、入試において女子学生の置かれている環境だった。昨年発覚した東京医科大学の不正入試問題を取り上げ、医学部における女子学生の進学率の低さ、また長期にわたって「2割の壁」を超えない東大の入学者における女性比率の低さを指摘。今でも女子が入れず、他大学の女子のみ参加を認める東大のサークルがあることにも触れ、性差別は上野さんが学生だった頃から半世紀も続いていることに驚いていると訴えた。
こうした現状に対し、「大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。東京大学もまた、残念ながらその例のひとつです」と現状を憂いた。上野さんはこのような研究をする女性学を「学問のベンチャー」と呼び、環境学や情報学、障害学などと共に時代の変化がそれを求めたのだと語った。
ここまで聞くと、まるでジェンダー論の講義のようだが、上野さんはこの祝辞の中で性差別について語りたかったのだろうか? ツイッターでは「#東大入学式2019」がトレンド入りしていたが、その中には「所詮フェミニスト」「フェミニストも性差別だ」という声も見られた。しかし、祝辞の全文を見ると、続けてこのようにも語っている。
「あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」
「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください」
不正入試や性差別を踏まえ「がんばっても報われない社会」があるのだと伝えた上で、東大の入学者に対しそれぞれの環境と能力を、人々を助けるために使ってほしいと語った。また最後には、「東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています」と語り、学ぶことの価値について伝えた。
上野さんのツイッターには、「大変深く重く非常に共感し意図の深さと温かさに涙溢れました」など、多くの感謝や賛同の声が寄せられたという。
(写真はイメージ)