現代人のゲノムデータから、縄文時代晩期の人口減少が明らかに
東京大学の大橋順准教授らのグループは、日本人男性345人のY染色体を解析し、縄文人に由来するY染色体の系統を発見した。さらに、現代人のゲノムデータから縄文時代の人口の変化を推定したところ、縄文時代晩期から弥生時代にかけて人口が急激に減少した後に急増したことが明らかになった。これまで縄文時代の遺跡の数や規模などの変化から、縄文時代後期または晩期に急激な人口減少が起きたのではないかと考えられてきたが、これを裏付ける結果がゲノムデータから導き出された形だ。17日付で英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。
現代日本人の成立過程は諸説あるが、日本列島に先住していた縄文人と、大陸から渡ってきた弥生人が混血したとする「混血説」が広く受け入れられている。縄文人は、狩猟採集を生業としながらも定住生活を行い、非常に高い人口密度を達成した世界的にも注目される集団だが、いまだ不明な点が多い。
今回、大橋准教授らのグループは、東京またはその近隣に住む現代日本人男性345人のY染色体の全塩基配列の決定と変異解析を行い、個人のルーツやその祖先の過去の人口の変化などを推定した。その結果、日本人のY染色体は7つの系統に分かれることが分かった。父性遺伝するY染色体は男性だけが持ち、組換えを受けないため、塩基配列の違いをもとにY染色体の系統を区別することができる。さらに、研究グループは7つの系統のうちの一つが縄文人に由来するY染色体を持つ系統であると特定した。47人の韓国人および244人の東アジア人を併せて解析した結果、日本人男性345人中の122人が属する「系統1」は、他の東アジア人集団には見られないことがわかった。また、この「系統1」に属するY染色体の変異は、形態学的に縄文人と近縁と考えられているアイヌ人において81.3%と非常に高い頻度で観察される。よって、この「系統1」のY染色体は日本列島に先住していた縄文人に由来すると結論付けた。
次に、この縄文人由来のY染色体の遺伝子の系図を対象に、人口動態の歴史的な変化を推論した。その結果、縄文時代になってしばらく経った1万2500年前頃に人口が徐々に増加し、3200年前頃からいったん人口が減少した後、2300年前頃に急増したことが示された。一方、弥生人に由来すると特定された「系統3」に属する68人のY染色体を調べてみると人口減少は見られず、弥生人が日本列島に来たときに深刻な変化はなかったようだ。
現代日本人の遺伝子を調べることで、その由来も含めて不明な点が多い縄文人の歴史、ひいては日本人の形成過程が解き明かされることが期待される。また、混血した集団の祖先集団における人口の変化を推定する良いケーススタディともなり、今回のアプローチは日本人のみならず他の集団の解析にも役立ちそうだ。
画像提供:シュプリンガー・ネイチャー(冒頭の写真はイメージ)