法律家の目でニュースを読み解く! 芸人の「闇営業」問題の真相(前編)
著名なお笑い芸人が「闇営業」をしたことで事務所から契約解除となり、イベントに参加した13人の芸人が謹慎処分を受けたことが話題になっています。「闇」という言葉は、いかにも悪いことをしたという印象を与えますが、今回の件はどのような問題をはらんでいるのでしょうか。法的見地から考えてみたいと思います。
協力:三上誠 元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。 |
「闇営業」の「闇」が連想させるもの
この事件では芸人たちが、専属マネジメント契約をしていた事務所を通さずに仕事を引き受け、その相手が振込詐欺などを行なっている俗に「半グレ」と呼ばれる反社会的勢力だったことが問題となりました。当初芸人たちは「報酬はもらっていない」と主張していましたが、最終的には関わった全員が金銭の授受があったことを認めました。しかし芸人たちは謝罪声明の中で一様に、「仕事の依頼主が反社会的勢力であることを知らなかった」と述べています。
今回マネジメント会社が、同件に関わった芸人たちの処分に踏み切った理由は、この反社会的勢力との関係が原因です。闇営業の「闇」という言葉はどちらかというと、契約違反よりもこちらの反社会的勢力とのつながりを連想させます。仕事の相手方に反社会的勢力と深い関係がある場合、企業が契約を解除することは、2007年ころから各都道府県に暴力団排除条例が規定された後、契約書に暴力団排除条項といわれる条項を盛り込むことで一般化されています。したがって、同件の仲介をしたとされる芸人に対して、反社会的勢力との一定の繋がりが明らかになった以上、マネジメント会社が専属マネジメント契約を解除すると判断したのは、このような社会的背景を考えると自然な流れです。
芸人たちはどこまで知っていたのか?
契約解除当初の会社側のコメントを見ると、「闇営業は社の規律に違反し、巻き込まれた芸人のイメージを著しく低下させた」とありましたが、本人が「反社会的勢力であることを認識していなかった」と説明したことから、慎重な言い回しを用いており、話し合いの上で契約解消という形をとったように見えます。この芸人に誘われて営業に参加した他の芸人たちの処遇も注目されていましたが、最終的に関わった全員が金銭の授受を認め、謹慎処分となりました。
マネジメント会社の調査不足を指摘する意見も散見されますが、捜査機関と異なり、強制捜査権限を持たない企業による調査では限界があることも事実です。特に、「反社会勢力だと知っていたか否か」という主観の部分については、本人たちが否定している限り、確証をつかむのはかなり難しいと思われます。したがって、安易に「知っていた」と認定することもできませんが、この闇営業で彼らが参加したイベントの主催者が振込詐欺集団であることは明らかであり、その犯罪収益から報酬を受け取ったことが強く推認されます。そのため、会社側としても処分に踏み切ったのでしょう。
なお一部報道において、闇営業に参加した芸人たちが、マネジメント会社の調査の前に口裏合わせを行い、報酬を受け取っていないと話すことに決めた疑いがあることが報じられていますが、このような行為は、犯罪の共犯者間では必ずといっていいほどみられるもので、珍しいことではありません。実際、彼らの弁解は、もともと主要な部分は非常に似通っていました。ところが本件はだいたい4年以上前の出来事ですから本来、人によって証言にかなりばらつきがある方がむしろ普通です。不自然に似通った証言ですと、訴訟では互いの証言の他の部分の信ぴょう性まで下げる要素となってしまうことがあります。
(写真はイメージ)