キウイフルーツから植物の性別獲得過程が明らかに 安定栽培への応用に期待
岡山大学の赤木剛士准教授らの研究チームは、キウイフルーツのオス機能の性別決定遺伝子を発見したと発表した。これは、赤木准教授らが昨年特定したメス機能の性別決定遺伝子とともに、二つの遺伝子の成立過程を明らかにしたもの。これにより、40年以上前から提唱されていた植物における性別の獲得進化理論が証明された。また、雄しべと雌しべの両方を一つの花に合わせ持つ「両性花」のキウイフルーツを人為的に作り出すことにも成功し、安定的な栽培への展開やこれまでにない組み合わせによる育種が可能になると期待される。英国の科学誌「ネイチャー・プランツ」に6日付で掲載された。
謎に包まれた植物の性別決定過程
「性別」による有性生殖は、生物が多様性を維持するための重要な仕組みの一つだ。動物ではこれまでいくつもの種で性別決定遺伝子が解明され、その進化の過程も明らかにされてきた。一方、植物では、性別の研究が始まって100年以上経つが、性別決定遺伝子が発見されたのは近年のことで、それもわずかな種に限られている。このため、その成立過程はいまだに多くの謎に包まれている。さらに農業の観点から見ても、性別は栽培や新しい品種を作る育種の上で考慮すべき大事な性質であり、人為的に性別を制御できる技術が広く望まれていた。
雄しべの維持を担う遺伝子「Friendly Boy」
今回発見されたのは、キウイフルーツにおいて雄しべの維持を担う遺伝子。これまでに雌しべの制御を担う「Shy Girl」と名付けた遺伝子が発見されていたが、これと対をなすもので、雄しべを維持する遺伝子は「Friendly Boy」と名付けられた。Friendly Boy遺伝子は、本来は雄しべと雌しべの両者を一つの花に持つ両全性の植物が共通して持っていた遺伝子。
このFriendly Boy遺伝子がキウイフルーツを含むマタタビ属でのみ壊れ、マタタビ属に特異なメスを作る仕組み(オス器官が壊れる=メスになる)が生じたことが明らかになった。一方、メス化を抑制する遺伝子であるShy Girl 遺伝子は、マタタビ属に特異な新しい機能をもつ遺伝子と考えられており、Friendly Boy遺伝子との比較によって改めてその進化成立パターンが示された。
植物種間で機能が共通した雄しべを維持する遺伝子が X染色体上で失われ、メス化を抑制する遺伝子が新しくY 染色体上に成立するという、二つの性別決定遺伝子の成立過程は、1978年に提唱された「植物の性別獲得における二因子理論」を証明するものだ。さらに、本来はメスであったキウイフルーツに Friendly Boy遺伝子を導入したところ、両性花をつける個体を作り出すことに成功した。この結果はFriendly Boy遺伝子がオス化に関わる遺伝子であることを示している。
キウイフルーツの安定的栽培にも期待
キウイフルーツは、受粉のための花粉の安定的な確保や、育種における交雑組み合わせの制限など、性別に由来する問題が非常に多い。しかし今回の研究により、キウイフルーツの両性花を作り出すことが可能になったため、安定的な栽培やこれまでできなかった組み合わせでの育種が可能となる。また、今回の研究成果により、キウイフルーツを通して、植物の性別獲得における進化の道筋と、植物がいかにさまざまな方法で性別を手に入れることができるかという柔軟性が実証された。この知見を応用することで、他の作物でも性別の改変が可能になることが期待される。
画像提供:岡山大学(冒頭の写真はイメージ)