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東大特任准教授懲戒処分での不適切な文言

東大特任准教授懲戒処分での不適切な文言

東京大学の大澤昇平特任准教授が、1月15日付けで懲戒解雇になりました。大澤氏の、SNS上での人種差別的な投稿が問題視されての今回の処遇ですが、東京大学が発表した懲戒処分の中に看過できない文言がありました。これについて、法律家の三上誠さんに解説いただきます。
 

解説:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

懲戒処分の理由に「反日」という文言

大澤氏は過去にTwitter上で人種差別的な投稿を繰り返しており、「(大澤氏が代表取締役である)弊社Daisyでは中国人は採用しません」「中国人のパフォーマンス低いので営利企業じゃ使えないっすね」「そもそも中国人って時点で面接呼びません。書類で落とします」などといった投稿が問題視されました。こういった経緯から、懲戒解雇という結論自体について、大澤氏を擁護する声がほとんど見当たらないのも致し方ないと思います。

ただし東京大学が懲戒処分の公表の中で<認定する事実>として挙げた項目に、以下のような文言がありました。

(2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿

ここで用いられている「反日」という言葉は、通常の辞書には掲載されていない、定義のあいまいな言葉です。ウィキペディアなどでは、「日本(日本国政府・天皇・企業・日本人・社会・文化・制度・歴史など)の一部または総体に対して反対・反発感情・価値観を持って行われている教育・デモ・活動・外交、それを行っている人物・組織・国家に対して使われる」とされていますが、「反日」という言葉は思想的な色合いも濃く、本来よほどのことがなければ公式な文章で用いられることはありません。
 

東京大学憲章の理念との矛盾

さらに、ここでは「反日勢力」という表現が使われており、一定の団体を想起させることになりますが、それがどのような団体を指しているのか、この文章からはまったく不明です。これを理解するには東京大学側に、大澤氏のどの投稿が「反日勢力に支配されているかのような印象を与えた」と考えたのか、釈明を求める必要があります。突き詰めるほど、なぜこのような表現をあえて使ったのか疑問が湧いてきそうです。

そして東京大学がこのような項目を挙げてしまうと、「東京大学は反日勢力を許容しない」と主張しているかのように受け取られてしまい、上記の意味で「反日」の範疇に入る思想や表現を、東京大学は許容しないかのような印象を与えてしまいます。

東京大学は東京大学憲章において「すべての構成員が国籍、性別、年齢、言語、宗教、政治上その他の意見、出身(中略)等の事由によって差別されることのないことを保障」すると表明しています。この理念を堅持していることを、大澤氏に対する断固たる処分で示そうとしたはずなのに、この文言があるせいで却って、東京大学憲章に矛盾や限界があるように見えてしまい、むしろ逆効果であるように感じます。

東京大学による情報発信は、日本国内に対する社会的責任だけでなく、海外における日本の信用にもかかわり、国際的にも大きな影響力を持ち得ます。そのためこの点については、東京大学から適切な釈明がなされることが望まれます。

(写真はイメージ)