[書評]歴史と戦争を振り返る本6選 前編
1.『君が戦争を欲しないならば』
著者:高畑勲
発行:岩波書店(2015年)
同書は『火垂るの墓』の監督・演出で知られ、2018年に亡くなった著者の岡山市戦没者追悼式・平和講演会での講演の内容をもとに編集されたもの。冒頭に、「広島・長崎・沖縄などでつらい思いをした人と比べて僭越だと思い語ってこなかった」という著者自身が経験した岡山空襲の経験談が収録されている。その一方で著者は、将来の戦争を防ぐためには、「悲惨な戦争体験を学ぶこと以上に、どうして始まったのか、どうしたら始めないですむのか、為政者や国民は戦中どのように振る舞ったのかを学ぶ必要がある」と語る。
著者は、戦時中の詩人の作品を見るとき、国に強制されてその詩を
この作品を通して、著者は一貫して戦争の備えとして戦争で準備をするのではなく、戦争に備えて平和の準備をすることが必要だと語っている。
(推薦者:丸山真実子)
2.『ヒロシマ 消えたかぞく』
著者:指田和
発行:ポプラ社(2019年)
同書は今年の青少年読書感想文全国コンクールの課題図書であり、児童向けに書かれた本ではあるが、是非大人の方にも読んでいただきたい一冊だ。
「うちはね、広島の町の はりまや町に あるの。」
この本は広島に住む、ある一般的な家族の長女・鈴木公子ちゃんが語り手となって書かれている。お父さん、お母さん、二男二女の子どもたち、犬のニイ、猫のクロ。鈴木家はいつも賑やかだった。そんな仲の良い鈴木家の日常を、カメラ好きの父親・六郎さんは写真にたくさん収めた。
「おにいちゃん、わたし、おそとで らくがきしたい!」
「ピクニックって、だーいすき!」
写真の中の子どもたちの姿は、とても日常的で、自然で、生き生きとしている。まるで近所の子どもたちを見ているような、自分自身の家族を見ているような、そんな錯覚に陥ってしまう。
1945年8月6日、午前8時15分。その瞬間、全てが消えた。鈴木家は公子ちゃんをはじめ、全員が被爆して間もなく亡くなった。らくがきも、ピクニックも、家も、家族も、夢も、その瞬間全てが消え去った。鈴木家のように、その日まであたりまえだった日常が一瞬にして”消えた家族”がたくさんいた。
原爆による被害やその後の影響についてはこれまでも知っていたが、この本で出会った公子ちゃんやその家族が、その瞬間「消えた」ということが、これまでとは違う”身近な悲しみ”として感じられた。「原爆投下」は、決しておとぎ話でも学校で学ぶ歴史の話でもない。本当にそこにあった家族を、日常を、幸せを一瞬にして消し去った”事実”なのだ。このことを決して「過去の話」にしてはならない。現代を生きる私たち、そして子孫たちに語り継いでいかなければならないのだ。
(推薦者:松本道央)
3.『同日同刻』
著者:山田風太郎
発行:文藝春秋(1986年、元版:1979年)
著者は奇想溢れる忍法帖や明治小説で、令和の時代でも人気のある山田風太郎氏。著者がほぼ唯一残した本格的なドキュメンタリーが同書である。
同書は太平洋戦争開戦の1941年12月8日と、終戦に至る1945年8月1日から15日までの出来事を国内外の膨大な資料を基に時系列順に記録しており、あたかも神の視点で見たように俯瞰して詳細に描かれる様は、歴史の流れに翻弄される人々の有り様を浮き彫りにする。
開戦の日、米国に対する宣戦布告がトラブルで遅れて、ハワイ真珠湾攻撃は通告なしの全くの奇襲になってしまった。しかし、米国側では日本の暗号を解読して攻撃を待ち構えていた。日本軍によるハワイ奇襲は一見大成功したようだったが、米国を再起不能にすることはできなかった。
そして終戦までの15日間。8月1日マッカーサーが初めて原爆を知り、2日攻撃第一目標が広島と決まる。6日広島に原爆投下、その地獄図絵。8日ソ連から宣戦布告。9日長崎に原爆投下。満州国新京での大混乱。10日未明の御前会議で終戦の聖断が下り、ポツダム宣言受諾文を海外放送で送信。庶民の間にも降伏の噂は広がっていく。12日連合国側の回答を受信。13日未明、日本からの回答がないので米軍が空襲を再開。14日御前会議で最終的な聖断が下る。外務省が正式にポツダム宣言受諾の通告電報を送る。天皇が終戦の詔勅を朗読して録音。そして15日、陸軍将校らが近衛師団長を殺害して偽命令で近衛連隊出動、宮内庁に乱入し天皇の録音盤を探すが発見できず。正午より天皇の終戦の詔書のラジオ放送。宇垣纏中将、大分の基地から九機の爆撃機で沖縄の米軍に特攻する。
市井の人々の手記も多数引用される。あの著名人があの場所に居合わせたという意外性は、明治ものや時代ものでの著者得意の手法を思わせる。どの分野においても人間の愚行の連鎖をひたすら描き切った著者の原点は、あの戦争にあったことが腑に落ちる。同書を通して、人が再び愚行に陥らず、それを超えるための英知を受けることを願いたい。
(推薦者:宮永龍樹)
(後編に続く)
(冒頭の写真はイメージ)