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[書評]歴史と戦争を振り返る本6選 後編

4.『世界の果ての子どもたち』

著者:中脇初枝
発行:講談社(2015年)

同書は、映画化された『きみはいい子』(2012年)などの作品で知られる、中脇初枝氏による戦争をテーマとした小説。戦後生まれの著者の周到な取材調査をもとに、戦時中、戦後の様子がリアリティにあふれて描かれている。

同書の主人公は、珠子たまこ茉莉まり美子ミジャという三人の少女。戦時中の満洲で出会った、出自も生い立ちもまったく異なる三人は、ひとつのおにぎりを分けあい友情を育むが、終戦によってそれぞれ中国残留孤児、戦争孤児、在日朝鮮人となって、苛酷な状況のなか戦後を生きていく。鮮明な描写を通して、目を覆いたくなるような戦争の悲惨さ、引き揚げ、残留、食糧難といった諸問題の実態、その残酷さがありありと伝わってくる。一方でその裏では、時代に翻弄されながらも多くの人に助けられ生き抜いた子どもたちの姿を通して、国境を越えた優しさが描かれている点にも注目したい。

2016年本屋大賞第3位に選ばれ、2018年に文庫化された同書は、現代を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれる一冊であるといえるだろう。
(推薦者:白石美香)


 

5.『危機の現場に立つ』

著者:中満泉
発行:講談社(2017年)

中満氏は1989年から国連職員として働き、湾岸戦争でのクルド難民危機、サラエボでの難民支援、国連PKOの政策策定などに従事してきた。加盟国間のパワーバランスに悩む国連の実情を感じながらも、現場主義で課題を把握し、敵対関係にある指導者と連絡を取りながら事態改善の交渉を進めていく。軍人と生活を共にし、事務所に逃げてきた住民を、検閲を潜り抜けて逃がしたり、人質に取られた職員の対応に追われたりと、緊迫した現場の空気を読み取ることができる。

同書では、家庭を持ち一度国連を去った後、夫婦で相談しながら居住国や仕事を決め、再び国連で働くようになった中満氏のキャリアの半生を綴る。アフガニスタン復興支援では、大統領や民間指導者達から「西欧諸国は自国の安全保障のために支援したが、本当に国のことを考えて支援したのは日本だけだ」と言われたという。一方、子育てのため日本で暮らした時は、格差拡大や内向き志向化、社会で支え合う寛容さが失われているように感じている。グローバル化の中で分断されつつある状況では、家族の記憶や地域の絆、アイデンティティを形成する文化の理解、そして理想や希望といった「普遍的な価値」だけが人間同士を連帯させてくれると語る。

中満氏は現在、国連軍縮担当事務次長・上級代表として核軍縮にも尽力している。平和は待っていてなされるのではなく努力して作りだしていくものだという言葉のように、一人一人が生活の現場で平和をなしていく努力が必要なのだろう。
(推薦者:浅緑綾)


 

6.『繰り返す日本史』

著者:河合敦
発行:青春出版社(2020年)

人間に好みや癖があるように、国家や民族性にも特性がある。それゆえに「歴史は繰り返す」と著者は語る。同書では日本の歴史の法則5つを挙げ、古代から現代まで繰り返される歴史を考察する。

その法則の一つが「貴種や名家など伝統に敬意を払う」だ。近代国家では希有な天皇制は言うまでもなく、下剋上でのし上がった戦国大名たちも、天皇家や将軍家とのつながりを求めたり、朝廷から官位をもらったりしていた。実力主義の時代を勝ち抜いてきた上で、己の立場をさらに大きく見せる必要があったのだ。太平洋戦争後、日本人のこの特性を熟知していたマッカーサーは、天皇に戦争責任を問えば日本人のアメリカに対する憎悪が後代まで続くことを恐れ、また日本政府に共産主義政権が生まれることを防ぎ統治するため、天皇制の存続を決定した。国民の絶大な尊崇を集める天皇を、占領統治に利用したのだ。

歴史を貫く日本人の行動原理として同書ではこれ以外に、「危機への“過剰な”対応」「祟りを恐れ、穢れを嫌う」「和の名のもとに、他人の自由を許さない」「学ぶ意欲の強さとアレンジ力」を挙げている。どのような力や法則が歴史を突き動かしてきたのかと思いをはせることで、混乱する現在を俯瞰的に見ることができる一助になるかもしれない。
(推薦者:田中陽子)

(冒頭の写真はイメージ)
 

歴史と戦争を振り返る本6選 前編