地球に優しい新しい農薬を 名工大、世界中のフッ素系農薬をすべて解析
名古屋工業大学大学院工学研究科の柴田哲男教授らの研究グループは、相模中央化学研究所と共同で、世界中に存在する2500以上の農薬をすべて解析し、含フッ素物質が424剤存在することを明らかにした。また、塩素系農薬に比べ、フッ素系農薬は安全性が高いことも示唆された。本研究成果は、9月3日にCell Press社が提供するオープンアクセス・ジャーナル「iScience」で公開された。
今までフッ素の使用により生物活性物質の性能が向上する例は多々報告されていたが、非フッ素物質に比べて製造コストがかかるのが障壁だった。そのため、医薬品への積極的な利用は目立つが、大量散布と安価製造が要求される農薬への使用は避ける傾向があると言われてきた。
今回、同研究グループは最近約20年間に国際標準化機構に登録された農薬をすべて解析した結果、登録された農薬は238剤で、そのうちフッ素物質は127剤で53%を占めていることが分かった。さらに、使用目的別に解析した結果、抗菌剤と除草剤では半数、殺虫剤と殺ダニ剤ではそれぞれ70%、77%をフッ素化合物が占めることがわかった。これは農薬にはフッ素化合物の使用を避けているとする予想を大きく覆す結果だった。さらに、国際標準化機構に登録されている農薬だけでなく、世界中で使用されている農薬約2500剤を調べたところ、フッ素物質が424剤存在することが分かった。さらに解析した結果、424剤のうち、物質中に含まれるフッ素の数が増えるほど、殺虫剤、殺ダニ剤の占める割合が増えていくことがわかった。また、抗菌剤、除草剤は医薬品に似た物性傾向を示すのに対し、殺虫剤、殺ダニ剤は正反対の傾向を示し、昆虫やダニの表面への吸着や浸透にフッ素が有効である可能性が示唆された。
地球環境への影響としては、フッ素物質は科学的に安定であることは一般に知られており、フロンガスなどのように自然環境には有害に働くことがわかっている。そこで、ストックホルム条約で規制されている化学物質を調べたところ、18種類の農薬が規制対象になっているが、最大警告付随書Aに記載されている17剤は塩素物質であり、条件付き使用付随書Bに記載の1剤のみがフッ素物質だった。これはフッ素化合物の安定性から考えると矛盾している。
この研究によって、使用目的別に農薬をデザインするための指針が見えてきた。またストックホルム条約と照らし合わせ、地球環境に配慮した農薬の設計にもヒントが得られたが、環境への影響はさらなる調査が必要だ。
(写真はイメージ)