NASA有人火星探査に向けた『火星への旅』

日本で来年2月に公開予定のSF映画「オデッセイ」では、米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士が火星に取り残される姿が2030年の話として描かれているが、実際に、NASAは2030年代に人類を火星に送り込むのに必要な技術を開発している。

8日に公開されたNASAのリポート『火星への旅』では、「NASAの歴史のどの時点よりも、火星に人類を送り込むのに近い状態にある。国際宇宙ステーション(ISS)での経験を活かし、今後10年間で、地球から遠く離れた深宇宙でのオペレーションを月の周囲の空間で訓練し、火星への旅に必要な経験やシステムを得る」と書かれている。

NASAはこれまで40年以上にわたって火星に無人の探査ロボットを送ってきたが、有人火星探査について3つの段階を挙げている。(1)ISSでの研究に焦点を置いた「地球依存」段階。(2)宇宙飛行士が数日で地球に帰還できる、主に地球と月の間にある空間でのオペレーション訓練に焦点を置いた「実験場」段階。(3)火星の衛星や、最終的には火星表面でのミッションとなる「地球独立」段階。単に火星を訪れるのではなく、滞在することを想定している。

ISSでは、火星など地球から離れた場所で必要とされる技術の検証や、宇宙飛行士の健康を守るための経験を重ねてきた。これが(1)の「地球依存」段階にあたる。2018年に見込まれる、NASAが開発中の宇宙打上げシステム(SLS)ロケットの打ち上げ(EM-1)と、有人ミッション用のオリオン宇宙船は(2)の「実験場」段階のミッションを可能にする。2020年には、地球近傍をめぐる小惑星を無人探査機で捕獲し、月の周回軌道に移動させた上で、オリオン宇宙船に乗った宇宙飛行士がサンプルを採掘し地球に持ち帰る計画もある。(3)の「地球独立」段階は、火星への移動中と火星表面で居住する間、何年にも渡って生活を支える仕組みを簡単なメンテナンスだけで運用できるようにすることや、火星の資源を用いて燃料、水、酸素、建築材料を作る技術開発などが挙げられている。

映画「オデッセイ」の中でも、NASAで実際に研究されている9つの技術が描かれている。SF映画で描かれる世界が、次第に現実化してきているといえよう。

NASA有人火星探査に向けた『火星への旅』

画像提供:NASA