深海掘削で海底下の微生物の実態を解明 海洋研究開発機構など
海洋研究開発機構などの研究グループは4日、室戸岬沖の深海を深度1180m・温度120℃まで掘削することによって、海底下生命圏の実態とその温度限界を解明したと発表した。研究成果はアメリカ科学振興協会(AAAS)が発行する科学誌「サイエンス」のオンライン版で、12月4日付(日本時間)で掲載された。
これまでの研究により、膨大な時間をかけて形成される海底堆積物には、未だ培養されていない固有の微生物が生息していることが明らかになっている。これらの微生物の活動により、海水から埋没した有機物が分解されてエネルギー資源であるメタンハイドレートが形成されるなど、地球規模の物質巡回に重要な役割を果たしていると考えられているが、その実態は不明だった。
それらの疑問を解き明かすことを目的として、国際深海科学掘削計画(IODP)「室戸沖限界生命圏掘削調査:T-リミット」が2016年に実施された。海洋研究開発機構・高知大学・産業技術総合研究所・東京大学・京都大学・神戸大学の研究グループは、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて高知県室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の水深4776mの海底(1.7℃)を、深度1180m(120℃)まで掘削して地質試料を採取。海底環境に生息する微生物の分布、堆積物の物性や温度などを詳細に分析した。
その結果、190〜400m・30〜50℃までの深度区間においては、深度・温度が増すにつれて微生物細胞の密度が低下していった。その一方でバクテリア(真正細菌)の休眠状態である内生胞子の密度は、40〜45℃と75〜90℃の深度区間で局所的に増加していた。570〜633m・70℃付近と829〜1021m・90〜110℃の深度区間に生命活動のシグナルが検出されない環境があり、そこには微生物の消費を免れた高濃度の酢酸が存在していた。また1021〜1180m・110〜120℃の堆積物と基盤岩の境界域に、酢酸を消費する超高熱性微生物生態系の存在を発見した。
この研究で120℃までの深度区間においてなお生命シグナルが検出されたことにより、地球惑星における生命圏の広がりとその限界の可能性は、海洋プレートが沈み込むその先や堆積物の下に広がる岩石圏(海洋地殻や上部マントル)にまで及ぶことが示唆された。
IODP第370次研究航海で掘削地点C0023から採取された、堆積物コア試料に含まれる微生物細胞と内生胞子の密度と環境因子の鉛直プロファイル。
画像提供:海洋研究開発機構(冒頭の写真はイメージ)