必修化から1年、プログラミング教育の今とこれから【後編】
前回は、小学校のプログラミング授業の目的や実態について触れました。後編では、保護者のサポートや来るべきデジタル化社会について、引き続き吉金さんに伺います。
インタビュイー:吉金丈典
大阪大学・基礎工学部・博士前期課程卒業後、大手電機メーカーに8年間勤務したのち、そろばんLABO芽育を開校。小中学生10人以上の有段者を育てた実績を持つ。2018年より小学生向けのプログラミング教育にも取り組む。インタビュアー:田中陽子(教育ライター)
求められる、大人の理解とサポート
田中:必修化されたばかりのプログラミング教育ですが、実際に子どもたちに教えていて、難しく感じることはありますか?
吉金:以前、芽育でも「プログラミングばかりやっていて勉強しないので、教室を辞めさせます」という親御さんがいらっしゃいました。子ども本人はプログラミングにとても楽しんで取り組んでいただけに、私としては非常に残念な思いがありました。
前回もお話した通り、「勉強かプログラミングか」どちらか選択をするということではなく、そもそも、勉強の意欲を高めたり各教科の学びを助けるためのプログラミング教育です。しかし中には、ゲームのようにプログラミングにハマってしまう子どもも確かにいて。とくに高学年になって中学受験も考え出すようになると、親御さんに「ゲームばかりやってないで勉強しなさい」と言われ、勉強をサボってるのと同じような扱いをされてしまうといったことも実際に多いようです。まだまだプログラミングの必要性が保護者側に認識されていないことを感じます。
これがプログラミングではなく、そろばんだったら違っていたのではないかとも思います。それは、そろばんだったら計算能力など一生役に立つ力が身に付くという認識がありますし、より勉強に密接に関係のあるイメージが親御さんの中にあるからですよね。しかしプログラミングも近い将来、そろばんと同じように社会において「読み書き」に並ぶ能力として認識されていくはずです。
田中:新学習指導要領でも、情報活用能力は言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられています。新たな社会を前にして、私たち大人の認識も新しくしなければいけませんね。しかし、大人たちの多くはプログラミングを学んだことがありません。国語や算数なら教えてあげられますが、プログラミングについてはどのようにサポートすれば良いでしょうか?
吉金:子どもの強みは、好奇心と新たなことを吸収するスピードにありますが、本人たちはそれを将来どう生かしていけばいいかが分かりません。一方で保護者は、プログラミングにおいてはよくわからないことが多いですが、社会で働いた経験やニュース、世の中の流れなどはつかみやすい立場にあります。ですから、保護者が子どもからプログラミングの学習内容を聞ききながら学び、社会でプログラミングを活かしている職業を見ながら、子どもの将来について一緒に考える、というのが現実的だと思います。
テクノロジーの力で未来社会を築く
田中:プログラミングを学んだ子どもたちが社会で活躍する20年後は、どのような世界になっているのでしょうか?
吉金:あくまで個人的な見解ですが、絶対的に必要なものはプラットフォーム(共通)化していくと思います。過去にも、WindowsなどのOS(オペレーティングシステム)やインターネット・検索エンジンなどがプラットフォーム化されてきました。検索エンジンも、裏側のプログラムの構造を理解していない人でも日常的に使っていますよね。AIも今は専門知識を持つ一部の技術者だけが扱っていますが、そのうち検索エンジンのように誰もが気軽に利用できるようになるのではないかと考えています。こうしたプラットフォーム化のためにも、やはりIT人材の育成が急がれます。
田中:プログラミング的思考を身につけた若い世代が社会に出た時に、彼らを受け入れ、共に社会を担っていく上の世代のマインドも重要だと思います。より上の世代はどのようにすればいいでしょうか?
吉金:プログラミングが得意な人には、物事を論理で切り分ける鋭さを持つ人が多い印象です。プログラムは適当に作ったら正常に動きませんから、細かい部分まで突き詰めて考える必要があります。そのため、ともすると、「こうでなければいけない」というような自分の世界観やこだわりが強い傾向にある人も見られます。こうした性質をわかって、互いを理解し、受け入れることが大切ではないでしょうか。近年よく言われる、ダイバーシティ&インクルージョンの一つかもしれませんね。
取材後記
ITスキルや論理的思考力は、これからの時代絶対的に必要とされる能力です。IT化で諸外国から遅れを取る日本が、こうした学校教育の取り組みによって前進することを願うばかりです。また子どもたちだけでなく、近い将来こうした教育を受けた世代と共に社会を築く私たちも、新たなスキルやマインドを備える必要があると感じました。(田中陽子)