泳ぐ微生物はなぜ生息地に留まることができるのか?その理由を解明 京大ほか
京都大学は21日、同大理学研究科 市川正敏講師らの研究グループが、繊毛虫テトラヒメナが水中の構造物付近で走流性を示す機構を明らかにしたと発表した。この研究成果は米国の国際学術誌「Science Advances」に20日(日本時間21日)にオンライン掲載された。
繊毛虫は水中生活する単細胞生物で小中学校、高等学校の教科書で紹介されることもあるゾウリムシもその仲間。身近な川や湖、池、水たまりにも生息する遊泳微生物で、虫眼鏡と少しの経験さえあれば簡単に見つけることができる。
繊毛虫は環境中のバクテリアを食べたり、魚の餌になったりすることで私たちの食生活や地球環境を間接的に支えていることがわかっており、SDGs(持続可能な開発目標)にも大きく関わっている。
淡水中に住む繊毛虫は流れに乗って移動するが、下流まで流され続けると最終的には海まで流れるため、死滅してしまう。しかし今なお繊毛虫が絶滅していないことから、逆説的に、繊毛虫は水の流れに逆らう「走流性」という性質を持っていると信じられてきたが、その詳細は解明されていなかった。
同研究グループは繊毛虫テトラヒメナに人為的な流れを加えた際の挙動を観察することで走流性の実態を明らかにし、さらに流体シミュレーションを用いて得られた結果を検証することで、テトラヒメナが示す走流性のメカニズムを解明した。
流れ場中でのテトラヒメナの挙動を定量的に評価した実験から、壁付近でテトラヒメナは明確な走流性を示した。流れが無い時にはテトラヒメナの泳ぐ向きはランダムだが、流れが強くなるにつれて流体力学的な効果によって多くのテトラヒメナの細胞の向きが上流方向を指すようになり、流れに逆らって遡上していくテトラヒメナも出てきた。
また流動場中での1本1本の繊毛運動を観察すると、壁付近の繊毛は運動を停止し遊泳力が非対象になっていた。さらに流体シミュレーションを用いて検証したところ、テトラヒメナのような回転楕円体が壁付近で流れに逆らう走流性があることが実験と定性的に一致した。
これらのことから、テトラヒメナの走流性は細胞が考えて行動しているわけでなく、細胞の形状と繊毛の性質で決まる「カラクリ」だと明らかになった。
テトラヒメナが流れに逆らう機構を明らかにした今回の研究について、同研究グループは「環境中での繊毛虫の分布予測について大きな一歩となった」とコメントしている。またこの研究を基礎として、計算機シミュレーションなどによる生息分布予測や、それに伴う環境変化の予測の精度が改善することが期待できるという。これらを通じて、「気候変動」や 「海の豊かさ」、「陸の豊かさ」といったSDGsの実現に貢献できるとしている。
画像提供:京都大学(冒頭の写真はイメージ)