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[書評]子どもの得意・不得意の理解者に 異才発掘プロジェクト「ROCKET」の目指す社会

不登校の児童・生徒が増加の一途をたどっている。そんな中、特定の分野に突出した能力があるものの協調性がない、読み書きが困難でコミュニケーションのとり方が周囲と異なる、といった学校に馴染めない子どもたちを受け入れているのが、異才発掘プロジェクト「ROCKET」だ。

ROCKETは、特別支援教育や心理学などを研究する東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野の中邑賢龍教授の研究室と日本財団の共同事業として、2014年に始まった。プロジェクト名の「ROCKET」は、地球を飛び出すような推進力のある子どもを育てたいという想いを込めた、「Room of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents」、つまり「志と変な才能をもつ子どもたちの集まる場所」の頭文字を取って名付けられた。

本書には、全国から集まった変な、つまり特異でユニークな才能をもつ子どもたちとの実験(試行錯誤という表現がふさわしいかもしれない)内容がまとめられている。

誰しもが持つ、得意・不得意の凸凹。とかく、凹(=不得意)を埋めることばかりに注力しがちだが、ROCKETではそれぞれの持つ凸(=得意)に目を向け伸ばしていく環境づくりを目指している。例えば、昆虫・鉱物・ロボットなど、自分の好きなことを追求するあまり学校で浮いてしまう子が、ROCKETでは自らが講師となって研究成果を発表する。毎日採集活動をして暮らすという、小学校高学年のキノコ博士が企画した毒キノコクイズは反響を呼び、弟子入りを志願する子どももいた。

実験のフィールドは屋内だけではなく、日本中、さらに海外に渡航するプログラムもある。北海道の原野にある朽ちた炭焼き窯を再生し最高の炭をつくるというミッションでは、その道70年の名人に嘆願して3人の中学生が挑んだ。「どのくらいの期間になりますか?」と聞くと、「そんなやつは来なくてもいい」と言われる始末。ROCKETのプロジェクトには教科書も時間制限もない。炭焼きは天気と自然を相手にする野良仕事、雪の日は雪除けばかりで、結局子どもたちが自宅に戻ったのは出発から24日後だったという。まさに、学校へ行っていないからこそできる学びだ。

著者である中邑教授は、本書でこう締めくくっている。「効率追求・目的重視の世界だからこそ、つぶされやすい彼らの理解者の一人になろうと思う。そんなことをおもしろがる大人が増えたとき、この社会は変わる」

教育、もしくは教育者の目的の大部分は、テストで良い点数を取ることや偏差値の高い学校に合格すること、そして良い会社に就職して安定した収入を得られる大人に育てることだ。これが、教育者のみならず学習者の目的にすり替えられている。しかし、教育の主役は学習者であり、「自分が興味のあることを学ぶ」「学びに目的などない」というスタイルが、学びの本来あるべき姿ではないか。出る杭を伸ばし、各分野で個性あふれる人材を育てることが、これからの教育に求められる。そして大人たちには、いかに凸凹を受容する社会を作れるかというミッションが課せられているのだ。

『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、 凸凹な子どもたちへの50のミッション』

編者:東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室
発行日:2021年4月20日
発行:どく社

(冒頭の写真はイメージ)