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[書評]大科学者ファラデーによる少年少女への名講義 「ロウソクの科学」

本書は、電磁誘導の発見など顕著な業績を残した英国の物理学者マイケル・ファラデーによる、少年少女のためのクリスマス講演をまとめたもの。王立研究所の主催による講演で、1860年のクリスマス休暇の講演を元に、全6講で構成されている。

マイケル・ファラデー(1791-1867)は、貧しい家庭に生まれて製本職人見習いとして働いていたが、職場で製本された書籍を読んで科学の分野に惹かれていく。客の好意で王立研究所の講演会に参加して感激したファラデーは、その教授に弟子入りを志願して、雑用係として採用される。やがて実験助手から科学者になり、様々な発見をして王立研究所の所長になる。多くの業績の中でも、電子1mol(モル)あたりの電気量であるファラデー定数と、コンデンサの電気容量の単位F(ファラド)にその名を残している。

講演の冒頭でファラデーは、宇宙のすべてを支配する諸法則の中で、ロウソクが燃える現象に何らかの役割を果たしていないもの、また何らかの関係を持っていないものはないと述べる。そうして燃えるロウソクを題材に取って、少年少女に向けて様々な実験を行っていく。炎の形・明るさの観察から始まり、燃えるためには空気が必要なこと、燃焼して出て来る気体の分析、同じ気体をボルタの電池を用いて電気分解で作り出すこと、さらにはロウソクの燃焼が人体の生命系に類似していることまで行きつく。その実験の内容は、多くが現在でも小中・高等学校で行われているお馴染みのものである。

そして、講演の最後でファラデーは若い聴衆に語りかける。「ロウソクのように光り輝いてください。全ての行動において、人類に対する義務の遂行において、正しく有益に行って、世界を照らす人になってください」と。

彼が研究所長になってから力を入れたことの一つが、講演会によって研究を社会に開かれたものにすることだった。特に少年少女のためのクリスマス講演会は、19回も自ら講師を勤めるほど熱心に行った。本書の刊行に際して、これまで子どもたちに話をするのが本当に楽しかったと語っている。

ファラデーが少年少女に科学の知識を伝えることを好んだのは、彼自身が同じような体験をして人生を変えるほどの感銘を受けたからに違いない。真理を学ぶことによって、人生の可能性は無限に広がっていくことを教えてくれる一冊だ。

『ロウソクの科学』

著者:ファラデー

発行日:2010年9月16日(元版は1861年)

発行:岩波文庫

(冒頭の写真はイメージ)

【書評】科学者の随筆・評伝