被災者の生活再建をマネジメントする仕組み「災害ケースマネジメント」
岸田首相は2021年末の参議院本会議で、今後の災害支援者支援のあり方について、個別の課題に寄り添い必要な支援を届ける「災害ケースマネジメント」の仕組み作りを進めたいと言及しました。
最近、ニュースでもよく耳にするようになった「災害ケースマネジメント」はどういうものなのか、近年の取り組みと合わせて紹介します。
災害ケースマネジメントとは何か
「災害ケースマネジメント」は被災者一人ひとりの被災状況や生活状況の課題等を個別の相談等により把握した上で、必要に応じ専門的な能力をもつ関係者と連携しながら、当該課題等の解消に向けて継続的に支援することにより、被災者の生活再建が進むようマネジメントする取り組みのことをいいます。
大規模な地震災害や豪雨災害などにより自宅が破損した場合、現行制度では、その被害状況によって受けられる支援サービスが決まります。そのため支援の枠組みから漏れてしまった場合、自立再建ができないまま壊れた家に長年住み続けるという世帯も少なくありません。
また、被災者一人ひとりの被災ダメージを規定する要因が重層的で多様化しており、同程度の被害状況だとしても、高齢、障がい、生活困窮など元々脆弱な世帯ほど強くダメージを受ける傾向があります。
被災者の生活再建のためには「災害ケースマネジメント」を制度化し、被災者一人ひとりに寄り添った支援を可能とする必要があると言えます。
災害ケースマネジメントの導入例
国内では、仙台市が2011年の東日本大震災の際に、初めて災害ケースマネジメントを本格的に導入。仮設住宅に入居する約8600世帯を直接訪問・聞き取りし、個別に支援メニューを組み合わせる生活再建施策を実施しました。
南海トラフ地震が30年以内に発生する確率が非常に高いと予測されている徳島県では、2019年に策定した「徳島県復興指針」の中で、県内で大規模災害が発生した際には、「災害ケースマネジメント」を実施できるように準備を進めることを明記しました。
鳥取県は2016年の鳥取県中部地震後、全国ではじめて災害ケースマネジメントの条例を制定し、運用を始めています。高額な修繕費の捻出が難しく住宅修繕に未着手である高齢者世帯には建築士から簡易な修繕、負債のある世帯には弁護士が法的観点から返済状況を確認、というように個別に課題を解決した結果、支援の必要な世帯は条例規定時の約1000件から令和3年度中には1桁まで減少したといいます。
また、生活再建に向けた各種支援制度についてまとめた「生活復興支援リーフレット」を配布している自治体もあります。
【鳥取県の生活復興支援リーフレット】
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1160907/seikatufukkoureaflet.pdf
最後に
真の災害復興とは、一人ひとりの被災者が持続可能な生活を取り戻すことです。これを可能にする一つが災害ケースマネジメントと言えますが、制度化には時間を要します。今後、全国の地方自治体で災害ケースマネジメントの取組みを進めるために、内閣府は、2022 年度(令和4年度)には、災害ケースマネジメントの標準的な取り組み方法や活用可能な制度等をまとめた手引書を作成し、全国の地方公共団体に共有するとしています。
(写真はイメージ)