地磁気極が南極大陸へジャンプ!? 福井県水月湖の堆積物から神戸大が発見
地球惑星科学の分野で未だ原因が解明されていない現象「地磁気エクスカーション」が、従来の説よりはるかに急速かつ大規模な地磁気極移動現象であったことを神戸大学、立命館大学、オックスフォード大学の研究チームが明らかにした。研究チームは福井県にある水月湖の堆積物を分析し、旧石器時代に起こった地磁気エクスカーションでは地磁気極が北極付近と北緯45度以南4地域の間を短期間に何度も行き来したことを明らかにした。この研究成果は英国科学誌Communications Earth & Environmentに掲載された。
地磁気のN極が移動する「エクスカーション」という現象
地磁気は地球の外殻にある液体状の鉄の対流で生じ、地球生命に有害な宇宙線を遮る働きをする。地磁気のN極(地磁気極)は通常は北極周辺をふらついているが、過去に北極から大きく逸脱する出来事が二種類あった。一つは180度近く離れる「逆転」で、約78万年前を最後にそれ以降起こっていない。もう一つは、地理的極から45度以上離れ、すぐ(2000年以内)に元に戻る「エクスカーション」である。こちらは逆転より発生頻度は高いが、期間が短いために稀にしか発見されない。どちらもその際に大幅な宇宙線の増加を伴うと考えられているが、その発生のメカニズムはわかっていない。
4万年前に起こった「ラシャンエクスカーション」
約4万年前のラシャンエクスカーションは、世界各地の火山溶岩や深海底堆積物から報告され、期間は約500年と考えられているが、これまでは古地磁気記録が低解像度のため詳細な特徴がわかっていなかった。この時期はホモサピエンスがユーラシア大陸全体に拡散した時代で、石器や人類化石を含む地層でラシャンエクスカーションが見つかれば年代を決定するための有力な手がかりになる。
「世界のものさし」と呼ばれる福井県の水月湖年縞
研究チームは、福井県が採取した水月湖の年縞堆積物を使用した。年縞とは長い年月の間に湖沼などに堆積した層が描く特徴的な縞模様の湖底堆積物のことで、1年に1層形成される。世界中で発見された化石や遺物がいつの時代のものかを知るために、この年縞が用いられている。今回研究チームが使用した水月湖の年縞は5万年を超える歳月をかけて積み重なったものとされ、考古学や地質学における年代測定のための「世界標準のものさし」に採用されている。さらにこれまで研究に使われてきた深海底堆積物の2~5倍速い速度で堆積しており、高解像度の古地磁気データの取得が可能だ。
ラシャンエクスカーションの実態がより明らかに
水月湖の年縞堆積物を用いて古地磁気を分析した結果、上述のラシャンエクスカーションが100年以内の期間で起こっていたことと、さらに、その2600年後には同様の振動を2回繰り返すエクスカーションが発見されポストラシャン (スイゲツ) エクスカーションと命名された。どちらのエクスカーションもその時期に地磁気強度が大幅に減少し、大量の宇宙線が地球に入射したことがわかった。古地磁気方向から双極子磁場を仮定して算出した結果では、地磁気極はおおむね年代順に北極と北太平洋、南太平洋、南インド洋、東アフリカの4か所の間を行き来したことになる。地磁気極が最も南に移動したケースでは、北極付近から南極大陸まで45年かけて移動し、38年で北極に戻っている。最速は南インド洋高緯度への移動で18年であった。
今回の成果によって、今後地磁気変動メカニズムの解明が進むことが期待される。また、4-5万年前のホモサピエンスのユーラシア大陸での拡散期の年代特定にラシャンエクスカーションとポストラシャン(スイゲツ)エクスカーションのデータが世界標準として貢献すると期待される。
画像提供:神戸大学