切り紙細工を材料開発の技術として応用 温度変調素子の開発に新たな可能性
日本の伝統工芸として知られる「切り紙」から着想を得た加工を施すことで、プラスチックのような物質も局所的な加熱/冷却素子として有力な材料になり得る。そんな研究成果を物質・材料研究機構の研究グループが発表した。今後、小型電子機器用の熱エネルギー利用技術やフレキシブルな温度変調素子などへの応用展開が期待できる。
温度制御は私たちの生活に欠かせない重要な技術であり、環境・機器の種類に応じた最適な温度制御技術の開発が進められてきた。現在は環境負荷が大きいフロン類ガスを用いる冷却技術に変わる候補の技術原理として、固体の伸び縮みに伴う温度変調現象「弾性熱量効果」が注目されている。弾性熱量効果を示す物質は数多く存在するものの、これまでは有力な候補は形状記憶合金などに限られていた。
今回、研究グループは、日本の伝統工芸の一つである「切り紙」の中の、線状の切れ込みを交互に入れるパターン加工をプラスチック材料に施すことによって、弾性熱量効果によって生じる吸発熱分布をデザインするという新手法を提案・実証した。
赤外線カメラを用いて素子の表面の温度分布を測定したところ、切り紙加工を施した試料には、未加工試料とは全く異なる温度変化分布が生じることが分かった。未加工試料では引張ひずみに対して一様な大きさの吸熱(約-0.2℃)が生じる一方、切り紙加工を施した試料では吸熱と発熱が同時に生じ、未加工試料よりも大きな温度変化(約-0.4°C)が特定の場所で観測された。切り紙加工をした試料では内部に応力の集中・分散点が周期的に分布して、応力集中点では温度変化量が増強されることが確認された。
さらに切り紙加工をすることで、同じ距離だけ伸ばすのに必要な引張応力を飛躍的に減らすことができる。そこで特定個所での温度変化量を引張応力で割った値を計算すると、切り紙加工のポリスチレンシートにおける値は、未加工の場合より大きいだけでなく、最も有望な材料候補と考えられてきた形状記憶合金(例えばニッケル-チタン合金)もはるかに超える値に達していた。
切り紙加工は様々な物質に対して適応できるため、様々な物質からの温度変調素子への展開が期待できる。研究成果は、ドイツ国際科学誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。
画像提供:物質・材料研究機構(冒頭の写真はイメージ)