太陽光パネル製造工程での廃棄シリコンを有効活用してCO2の資源化へ 横国など
横浜国立大学大学院の本倉健教授らは、産業技術総合研究所、東京工業大学と共同で、太陽光パネルの製造工程で排出されるシリコンウエハ(金属ケイ素)を活用して産業排ガスである二酸化炭素(CO2)をギ酸やメタノールなどの有用化学品に合成することに成功した。
今後、CO2の資源化と太陽光パネルのリサイクルを同時に達成する技術へつながると期待される。国際科学雑誌「Energy Advances」に5月27日付で掲載された。
再生可能エネルギー導入のために太陽光パネルの需要は大幅に伸びており、その大部分がシリコン系であると言われている。太陽光パネルの平均耐用年数は30年程であるため、2050年頃には世界で60~78メガトンもの太陽光パネルが廃棄されると予想されている。発電に用いるシリコンはパネル全体の重量の2~3%であるが、現状ではシリコンの明確なリサイクル方法が確立されていない。
また、2050年のカーボンニュートラルへ向けて、CO2の排出削減・有効活用は喫緊の課題だ。CO2を有用化学品に変えるには、触媒と還元剤を利用する必要がある。金属ケイ素をCO2と反応させて有用化学品を合成する既存の2例の報告では、特別に調製したシリコンナノ粒子を準備し、シリコン表面を活性化するためシリコン重量に対して3700%および220%のフッ化水素(HF)を加える必要があった。
今回、太陽光パネルの製造工程で排出されるシリコンウエハを粉砕し、粉末状にしたものを還元剤として活用して、猛毒のHFの代わりに安定なフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)を触媒としてCO2を有機資源へ変換する触媒反応の創出に成功した。
しかも処理に必要なフッ化物の量もシリコン重量に対してわずか0.68%で済む。これらをCO2雰囲気下において混合して150℃で加熱することで、投入したCO2のうち最高で68%がギ酸に転換した。
さらに反応条件を検討することで、CO2から最高で20マイクロモルのメタノールを合成することにも成功した。これらの反応はTBAFを添加しないと全く進行しなかった。生成したギ酸やメタノールがCO2の炭素由来であることを確認するため、同位体13Cで置換した13CO2を用いて触媒反応を行ったところ、生成したギ酸やメタノールに同位体13Cが含まれていることも確認できた。
触媒反応の終了後に固体残渣を回収し、X線光電子分光(XPS)とX線回折(XRD)測定した結果、投入した金属ケイ素が酸化され、残渣の表面にSi-F結合が形成されていた。
今回は太陽光パネル製造工程での廃棄シリコンウエハを利用したが、使用済みの太陽光パネルから回収されるシリコンセルの活用へ展開する必要がある。CO2の削減・資源化と、廃棄太陽光パネル問題の両者を一気に解決する新たな触媒反応として、この成果を展開していくという。
画像提供:The Royal Society of Chemistry 2022(冒頭の写真はイメージ)