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PM2.5の特定成分の濃度上昇が緊急搬送の件数の上昇と相関、東邦大など

PM2.5の特定成分の濃度上昇が緊急搬送件数の上昇と相関 東邦大など

東邦大学医学部の道川武紘講師らの研究グループは、大気汚染物質の一つであるPM2.5の構成成分に着目し、特定成分の濃度上昇が救急搬送を要請するような急性の病気を増やす可能性を報告した。この成果は5月24日に環境科学の専門誌「エンバイロメンタル・サイエンス・アンド・テクノロジー」に掲載された。

大気中に浮遊しているPM2.5は炭素成分、イオン成分など複数の成分から構成されており、呼吸器系や循環器系の病気の原因になると考えられている。これまでPM2.5全体濃度と健康への影響は研究されてきたが、PM2.5の特定成分の濃度と健康の関連性については、あまり研究されていなかった。

研究グループは2016~2018年における東京23区内の急病による救急搬送データ約104万件を用いてPM2.5の全体濃度および特定成分の濃度変動と救急搬送件数との関連性を調べた。全体濃度の3年間の平均は環境基準を下回っていた。全体濃度が四分位範囲(濃度の低い順からデータを並べた時、上から四分の一にあたる濃度と下から四分の一にあたる濃度の差のこと)上昇すると救急搬送件数が1.2%増加した。全体濃度の上昇と救急搬送件数の増加の関連性は、先行研究でも報告されている。PM2.5の特定成分のうち、元素状炭素、硫酸イオン、アンモニウムイオンは濃度の上昇と共にそれぞれ1%程度救急搬送件数が増加し、これらの特定成分が健康に影響している可能性が示された。硝酸イオン、塩素イオン、カリウムイオンについて関連性が見られず、ナトリウムイオンとカルシウムイオンは濃度の上昇に対して救急搬送件数が減少した。

同グループは過去に、東京23区内におけるPM2.5中の元素状炭素の濃度と死亡との関連性を調べたが、結果は同様だった。元素状炭素は化石燃料などの不完全燃焼にともない大気中に排出されるスス粒子で、炎症を引き起こす、心臓血管の血流を低下させる、肺の機能を低下させるなどの好ましくない影響が報告されている。硫酸イオンについては健康影響を報告する疫学研究はあるが、生体への影響機序についてははっきりしていない。硫酸イオンとアンモニウムイオンは硫酸アンモニウムとして大気中に存在しており、この二つのどちらかが関連しているのか、あるいはどちらも関連しているのかを判別するのは難しい。ナトリウムとカルシウムについては救急搬送数を減らす方向の関連性が見られたが、PM2.5の中に占める割合が低いので結果の解釈には慎重になる必要がある。

今回、呼吸器疾患や循環器疾患を原因とする搬送を取り出した検討はできていない。またPM2.5濃度データは東京23区内の1カ所で取得したデータを用いているが、救急搬送データは、個人を識別できないように 23 区内のどこに救急出動したのかという情報が含まれておらず、緊急出動した場所でのPM2.5濃度データとの関連性までは調べることができていない。今後、こうした点を考慮した研究が行われれば、PM2.5の特定成分の健康影響について一層の理解を深めることとなり、健康を保護するための効率的な大気環境づくりにもつながるだろう。

PM2.5濃度(搬送日と前日の平均濃度)と救急搬送との関連性(橙:正の関連性、黒:関連性なし、青:負の関連性)

画像提供:東邦大(冒頭の写真はイメージ)